著者
和田 章義 柳瀬 亘 岡本 幸三
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.100, no.2, pp.387-414, 2022 (Released:2022-04-07)
参考文献数
48
被引用文献数
1 4

2018年台風第12号(ジョンダリ)は7月29日の日本上陸前に、対流圏上層寒冷低気圧の円周に沿った異常な経路をとった。大気海洋相互作用および対流圏上層寒冷低気圧とジョンダリの相互作用が台風経路に及ぼす影響を調べるため、3kmメッシュ非静力学大気モデルと大気波浪海洋結合モデル及び異なる初期時間を採用して作成した初期条件に基づく数値シミュレーションを実施した。シミュレーションされた対流圏上層寒冷低気圧は355K等温線上の高ポテンシャル渦度、低い気圧、低い相対湿度の特徴をもつ。7月25日から27日にかけて対流圏上層寒冷低気圧はジョンダリの北側を南西方向に移動し、この期間にシミュレーションされたジョンダリは対流圏上層寒冷低気圧の円周に沿って反時計回りに移動した。ジョンダリが西に移動し始めてから、大気波浪海洋結合モデルによるシミュレーション結果において、経路に沿って海面冷却が生じていた。日本上陸後にジョンダリは勢力を弱めると、対流圏上層寒冷低気圧も日本の南側で勢力を弱めた。特に潜熱フラックスと対流による対流圏上部における加湿が勢力の弱化に影響を与えていた。ジョンダリが九州の南海上で再び発達したとき、台風域では渦位は柱状に高くなり、一方で対流圏上層寒冷低気圧付近の対流圏上層渦位は相対的に低い値であったことから、台風域の渦は対流圏上層寒冷低気圧と合体する様子がシミュレーションされた。大気波浪海洋結合モデルのシミュレーション結果では、寒冷低気圧付近の対流圏上層部における高渦位は維持される一方、柱状の台風域の渦位はその高さを下げつつ弱まり、台風中心からの対流圏上層への外出流が弱まった。この結果、対流圏上層寒冷低気圧から変形した高渦位の折り返し位置に影響を与える様子が見られた。ジョンダリの経路に影響を及ぼす指向流は、対流圏上層寒冷低気圧下の地衡風の影響を受けていたため、実際は上記海洋結合の効果よりも大気初期条件の違いがジョンダリと対流圏上層寒冷低気圧両方の経路と強度により強い影響を与えていた。
著者
青梨 和正 田島 知子 久保田 拓志 岡本 幸三
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1201-1230, 2021 (Released:2021-10-30)
参考文献数
35
被引用文献数
2

全天候マイクロ波イメージャ輝度温度を雲解像モデルの降水物理量へ同化するため、2スケール近傍法を使うアンサンブルに基づく変分同化法スキーム(EnVar)に、降水の非正規型確率分布関数(PDF)と、PDFの代用レジームを使った新しい位置ずれ補正法を導入した。 多くの事例について降水のアンサンブル予報摂動の既存の非正規PDFモデルへの適合性を評価した。これをもとに、降水強度のPDFとして混合対数正規分布を選び、EnVarに降水なし、降水ありの2つのPDFレジームを導入した。次に、EnVarで非降水、降水、強雨の代用レジームを導入し、そのPDFを対象地点の周囲のPDFの平均で近似する、降水の位置ずれ補正法を開発した。この平均の水平スケールは、アンサンブル予報摂動の相似性に基づいて推定した。上記手法が、マイクロ波イメージャ輝度温度の観測値と第一推定値の差のバイアスと正規性を向上させた。 台風1518について全天候マイクロ波イメージャ輝度温度観測データを同化する実験を行なった。その結果、本研究のEnVarは、従来の、降水の単一の正規分布PDFレジームを使うEnVarに比べて、衛星全球降水マップ(GSMaP)に近い降水解析値を与えた。降水の混合対数正規分布の導入は、台風や前線付近の強雨域で解析降水量を強め、代用レジームの使用は、解析値の降水の位置ずれ誤差を大幅に減らした。本研究のEnVarは、雲解像モデルの12時間予報までの降水予報を改善し、1日以上の台風中心位置や中心気圧の予報を改善した。さらにEnVarの予報解析サイクルは、1時刻の輝度温度同化よりも、台風周辺の強雨の短期予報と台風に付随した降水帯の予報を改善した。