著者
田崎 祐生
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
大阪成蹊大学芸術学部紀要 (ISSN:18801544)
巻号頁・発行日
no.4, pp.31-48, 2008

2007年夏、3年ぶりにパリ、その後にミュンヘンを訪れた。それぞれに3泊ずつ、わずか1週間の短い旅行ではあったが、今回の旅の目的は、いくつかの公園に行くこと。ミュンヘンでは、旧市街の北側、かつて芸術家たちが集まったシュヴァービングの東側に広がる広大なエングリッシャー・ガルテン/英国庭園と、市街の西に位置するニンフェンブルク城、とくに旅館の南西に立つロココ様式のアマリエンブルクのまわりをゆっくり楽しんだ。これらではともにバイエルン州第一の大都会の中であることを忘れるほどの、まさにシュヴァルツヴァルト/黒い森のような閑けさを往診できるが、第二次世界大戦で壊滅的な被害を蒙ったミュンヘン旧市街の各所にも、個性的な噴水や彫刻を持った数多くの広場が計画され、そうした広場をめぐるようにして散策を楽しめる。一方、パリにも、世界的に知られた公園や庭園がいくつもあり、歴史的建造物と同様に数多くの観光客を集めている。今回は、少し肌寒い天候であったが、久しぶりにパリ市の西端に広がるブーローニュの森を訪れたものの、半ば道に迷って、目的地としていたバガテル公園には至らずに途中でメトロの駅、ボルト・ドーフィーヌヘと戻ることとなり、はからずもあらためて、この森の大きさを実感することとなった。このブーローニュの森、また東端のヴァンセンヌの森という二つの大公園を除くとしても、パリ市の緑地はおよそ500ha、パリ市域の5%といわれ、日本の諸都市と比べれば、格段に大きい。それでもなお、前フランス大統領のJ.シラクがパリ市長在任中、被け公園の新設や整備を公約し、公園・庭園・緑地管理局を独立に設けて、さらなる公園増設を押し進め、現在のパリ市長B.ドラノエもまた、市民のリクエストに答えて、公園の増設を公約しているという。しかしながらパリ市内にまとまった公園用地を確保することは容易ではない。近年、つくられてきた公園は、かつてのような大公園ではありえず、逆に市内各所に残された小さな空地を、従来の形式にとらわれずに、自由に、積極的に緑地化したものがほとんどである。この夏、そうした公園を実際に訪れてみたが、そこでは数多くの観光客が訪れる有名なフランス庭園とは異なる姿に驚くとともに、いろいろと新たな興味が広がった。本稿では、これまで訪れてきたパリを思い返しながら、パリに暮らす市民や彼らが求める公園などを手ががりとして、パリという都市を捉え直し、公園や都市を「歩くこと」を私たちの問題としても展開してみたい。