著者
千代原 亮一
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.213-223, 2006-03-25

インターネットに代表される情報通信技術の発達は、国民の表現の自由をめぐる状況に劇的な変化をもたらしたが、その反面、重大な社会問題を惹起している。特に近年、インターネット上での悪質な犯罪行為や違法行為が顕在化しており、その原因としてインターネットの匿名性が挙げられる。その為に政府は、「インターネット実名制」の導入を検討し始めているが、拙速な実名制の導入はインターネットの更なる発展を阻害するだけでなく、「自由で開かれた公開討論の場」としてのインターネットの機能を奪いかねない。日本国憲法第21条で保障された表現の自由の制度趣旨の一つとして、いわゆる「思想の自由市場」が論じられるが、仮にインターネットが、思想の自由市場ないし公開市場であるとするならば、インターネット上での言論に匿名性が担保されていることは、表現の自由の保障に大きく寄与することになる。
著者
千代原 亮一
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.109-127, 2007

合衆国では、1994年7月に発生した女児強姦殺人事件を受けて、同年10月に性犯罪者情報公開法(いわゆるミーガン法)が州法として制定され、1996年には同法は連邦法となっている。我が国においては、性犯罪者対策に関して、これといった特別な施策は行われてこなかったが、2004年11月(奈良市)、2005年11月(広島市)に発生した女児誘拐殺害事件を受けて、性犯罪者対策を考えることが急務となっている。2005年6月から、警察庁と法務省が諸外国の「性犯罪者情報登録法」を参考にして、「子ども対象・暴力的性犯罪」を犯して刑務所に収容されている者についての出所情報を共有することによって、危険な性犯罪者に対応する再犯防止対策を打ち出しているが、我が国においても、性犯罪者情報の登録制度から公開制度に移行するかどうかということを検討することは重要な課題である。
著者
田崎 祐生
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
大阪成蹊大学芸術学部紀要 (ISSN:18801544)
巻号頁・発行日
no.4, pp.31-48, 2008

2007年夏、3年ぶりにパリ、その後にミュンヘンを訪れた。それぞれに3泊ずつ、わずか1週間の短い旅行ではあったが、今回の旅の目的は、いくつかの公園に行くこと。ミュンヘンでは、旧市街の北側、かつて芸術家たちが集まったシュヴァービングの東側に広がる広大なエングリッシャー・ガルテン/英国庭園と、市街の西に位置するニンフェンブルク城、とくに旅館の南西に立つロココ様式のアマリエンブルクのまわりをゆっくり楽しんだ。これらではともにバイエルン州第一の大都会の中であることを忘れるほどの、まさにシュヴァルツヴァルト/黒い森のような閑けさを往診できるが、第二次世界大戦で壊滅的な被害を蒙ったミュンヘン旧市街の各所にも、個性的な噴水や彫刻を持った数多くの広場が計画され、そうした広場をめぐるようにして散策を楽しめる。一方、パリにも、世界的に知られた公園や庭園がいくつもあり、歴史的建造物と同様に数多くの観光客を集めている。今回は、少し肌寒い天候であったが、久しぶりにパリ市の西端に広がるブーローニュの森を訪れたものの、半ば道に迷って、目的地としていたバガテル公園には至らずに途中でメトロの駅、ボルト・ドーフィーヌヘと戻ることとなり、はからずもあらためて、この森の大きさを実感することとなった。このブーローニュの森、また東端のヴァンセンヌの森という二つの大公園を除くとしても、パリ市の緑地はおよそ500ha、パリ市域の5%といわれ、日本の諸都市と比べれば、格段に大きい。それでもなお、前フランス大統領のJ.シラクがパリ市長在任中、被け公園の新設や整備を公約し、公園・庭園・緑地管理局を独立に設けて、さらなる公園増設を押し進め、現在のパリ市長B.ドラノエもまた、市民のリクエストに答えて、公園の増設を公約しているという。しかしながらパリ市内にまとまった公園用地を確保することは容易ではない。近年、つくられてきた公園は、かつてのような大公園ではありえず、逆に市内各所に残された小さな空地を、従来の形式にとらわれずに、自由に、積極的に緑地化したものがほとんどである。この夏、そうした公園を実際に訪れてみたが、そこでは数多くの観光客が訪れる有名なフランス庭園とは異なる姿に驚くとともに、いろいろと新たな興味が広がった。本稿では、これまで訪れてきたパリを思い返しながら、パリに暮らす市民や彼らが求める公園などを手ががりとして、パリという都市を捉え直し、公園や都市を「歩くこと」を私たちの問題としても展開してみたい。
著者
呉 菲 谷光 太郎
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.167-190, 2006-03-25

中国半導体産業発展の沿革と現状を踏まえ、中国政府の半導体産業政策の戦略的特質について、中国国務院が公布した「18号文書」を中心に考察する。「18号文書」の内容と実施における問題点を分析し、今後の中国半導体産業政策の行方を展望する。
著者
谷光 太郎
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.27-60, 2005

鴎外森林太郎の(1)軍医としての官界生活には、青春時の海外留学、日清・日露両戦役への出陣、軍医界での昇進、左遷、同期生上役との軋轢、斯界大ボスから受け続けた冷遇に屈ぜずの精進、といったいつの時代にもある宮仕えの哀歓があった。(2)家庭生活では、権門家子女との初婚の破綻、二度目の妻と母との尋常ならざる不和、先妻が産んだ嫡男と後妻との対立等、困惑の多いものだった。(3)文人としての鴎外の経歴には汗牛充棟の研究書がある。鴎外のキャリアを論ずるにはこの(1)、(2)、(3)からの分析が必要であるが、紀要としての紙数の制限もあり、本論文は(1)に限るものとした。キャリア・デベロップメントや、キャリア・デザインに関心のある諸賢のご高覧を得れば幸である。
著者
吉田 幸雄
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.81-93, 2003

電子自治体構築の最重要基幹システムはGIS(地理情報システム)であるといってよい。GIS構築で重要なのは自然言語で表現された位置情報(住所や地番等)を空間言語で表現された位置情報(座標)に変換するジオコーディングの導入である。なかでも最も頻度高く利用される住所を座標変換するアドレスジオコーディングの効率化・精度向上のためには「住居表示」制度の普及が重要である。京都市では中心4区において伝統的な住所表示方法(交差点方式と町名地番方式の二重構造)が今も利用されているため、市域全体に住居表示が実施されていない特異な都市である。ところが、京都市の住所表示方法にふさわしい住居表示メニューが「住居表示に関する法律」では実際には用意されていることを明らかにし、次いで若干の改良を行えば京都の伝統を残したままの住居表示が実施可能であることを明らかにする。
著者
四方 功一
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
大阪成蹊大学芸術学部紀要 (ISSN:18801544)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.10-13, 2005

Last year, I had commission to architect two "INTERESTING" houses from my acquaintances. They are the House of Ms. Ishihara and the House of Mr. Harada, as appear in the title. They are very contrastive. One is for an elderly family, and another is for a young couple. One is made to be "barrier free", and another is a typical urban house on a small plot of land. They both are timely topics often come up as the problem of the recent Japanese society.
著者
児山 俊行
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.59-79, 2007

まず、イタリア産地分析では、「組織的知識創造」論に由来する「暗黙知」概念を、諸批判を踏まえ、言語化しうるものに限定すべきだとした。イタリア産地の競争優位は言語化できない暗黙的要因にあると言われるが、「暗黙知」概念や「形式知/暗黙知」の二分法は十分な分析ツールとなりえない。むしろ、生産上の「行為」そのものに焦点を当て、「知ること」と「作ること」を媒介し「行為」を生む根源を「直観の付随した構想力」とみるべきであり、それを分析フレームワークの中心をなすべきではないかと考えた。したがって、イタリア産地の諸特性を捉えきれない「暗黙知」概念は、イタリア産地の「生産能力」を「ラベル」として示すものに過ぎないと結論づけた。
著者
渡部 昭男
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
大阪成蹊大学紀要 (ISSN:21894744)
巻号頁・発行日
no.7, pp.239-251, 2021-02-20

「教育無償化」論議の経緯と特徴について、これまで2016年第190回~2019年第200回の国会審議を追ってきた。第4報となる本報告では、第201回国会(2020.1.20-6.17) における審議を扱う。これまで同様に国会会識録検索システムを用いて「教育無償化」で簡易検索したヒット記事を通覧するとともに、「困窮学生」等の他用語検索を適宜追加した。会期前半では大学等修学支援法の施行に係る論議が、後半ではコロナ禍での家計急変への対応・困窮学生への緊急支援に係る論議が展開された。コロナ禍での学生の困難困窮が深刻化する中で、消費増税分の一部を財源として低所得層に留めた大学等修学支援法の枠組み設定自体が問われ、学生当事者の切実な声や意見の表明と署名運動が支援の規模と対象を広げる結果となった。閉会後の「「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』」(学びの継続給付金)の実施状況の検証、日緯比較研究のための韓国の国会審議の検討は、今後の課題である。
著者
太矢 一彦
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13489208)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.131-148, 2003

これまで賃料債権に対する抵当権者の物上代位については、賃料債権を譲り受けた者、一般債権に基づいて賃料債権を差押えた者、賃料債権につき相殺を主張する者などとの優劣が問題とされてきたが、本判決は、転付命令を取得した者と物上代位権者との優劣についての最高裁判決であり、賃料債権に対する抵当権者の物上代位権の行使について重要な意義を有するものである。本判決は、優先権(物上代位)の目的となっている債権についても被転付適格を肯定し、そのうえで、転付命令が確定するまでに民事執行法159条3項に規定する差押等を物上代位権者がなされなければ、物上代位の効力を転付命令を取得した者に対し主張し得ないとしたものであるが、その結論には賛成するものの、本判決の理由については疑問である。
著者
稲垣 貴士
出版者
大阪成蹊大学
雑誌
大阪成蹊大学紀要 (ISSN:21894744)
巻号頁・発行日
no.1, pp.153-160, 2015-03-20