著者
田村 雅仁 久間 昭寛 宮本 哲
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.655-660, 2016 (Released:2016-10-28)
参考文献数
30

腹膜透析を長期にわたり安全に行うためには, 透析液中の非生理的成分を減少させ, 生体適合性を向上させる必要がある. 近年, この問題を改善させた乳酸中性透析液とイコデキストリン透析液が透析液の主流となったが, 高濃度の乳酸が含まれており生体適合性の問題が懸念されていた. 2014年に生理的濃度の重炭酸と低濃度の乳酸を緩衝剤として使用した新しい透析液 (重炭酸中性透析液) が本邦で発売された. 海外では重炭酸中性透析液の生体適合性がよいことが報告されているが, 乳酸酸性透析液との比較であり重炭酸や乳酸による影響のみかどうか不明であった. しかし, 培養腹膜中皮細胞を使った乳酸中性透析液と重炭酸中性透析液との比較実験により, 重炭酸中性透析液では乳酸中性透析液よりも細胞障害が抑制されていることが明らかになり, 乳酸の問題があらためて浮上した. 今後, 重炭酸中性透析液の使用により, 臨床での有用性を確認する必要がある.
著者
春山 直樹 柳田 太平 西田 英一 安永 親生 原 由紀子 安達 武基 椛島 成利 田村 雅仁 柴田 英治 合屋 忠信
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.329-333, 2010-03-28
参考文献数
23

症例は37歳,女性.平成11年9月にIgA腎症からCAPDを導入された.平成17年3月より挙児希望から近医で体外受精―胚細胞移植(IVF-ET)を始め,同年9月より週1回血液透析を併用した.平成19年3月に3回目のIVF-ETで妊娠6週を確認することができた.その後,血液透析を週2回5時間併用として貧血,透析量の管理を行っていたが,妊娠14週より週3回各5時間の血液透析へ完全に移行し,徐々に透析量を増やした.妊娠17週に切迫早産と診断されて,近医大学病院に入院した.妊娠32週で胎児は生下に十分耐えうる大きさとなり,帝王切開で2,284 gの健康な女児を出産した.その後母体,出生児ともに合併症なく,妊娠36週で退院となった.その後血液透析を継続していたが,母親は育児のためにCAPDの再開を希望した.腹腔洗浄を試みたが,カテーテルは子宮の圧排で上腹部へと転位し注排液不可能だった.そこで腹腔鏡下にカテーテルの整復術を行い,CAPDを再開することができた.CAPDの妊娠は,透析液による腹腔内の高浸透圧環境が卵子の着床に不適であるとされており,体外受精―胚細胞移植がより確実かもしれない.また,本症例のように腹膜透析導入後7年経過し,残存腎機能のない症例においては,妊娠早期より血液透析を併用,ないし一時的な移行が必要と思われた.