- 著者
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田邉 紗織
渕 雅子
山本 澄子
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.B0271, 2008 (Released:2008-05-13)
【はじめに】脳卒中片麻痺患者の歩行において、麻痺側立脚期の短縮は揃型歩容を呈する原因の一つとなる。今回、脳卒中片麻痺患者1症例について、約1ヶ月間の経過の中で揃型から前型に至るまでの歩容を経時的に計測し、力学的側面から考察を加えたので報告する。【方法】対象は脳梗塞(右被殻)により左片麻痺を呈した69歳女性。発症後116日目以降2週毎に計3回、独歩での自由歩行を三次元動作解析装置(VICON MX13 カメラ14台)、床反力計(AMTI社製)6枚を用いて計測し、1歩行周期の重心、前後方向床反力(以下Fy)、下肢の各関節角度とモーメント(以下M)、パワー、及び歩行速度、cadence、step lengthを算出した。同時に初期時と4週目にFugel-Meyer-Assesment(以下FMA)を用いて身体機能を評価した。【結果】FMAは初期時162点、4週目は164点であった。歩容は2週目まで揃型を呈していたが、4週目以降前型へと変化し、歩行能力も杖歩行軽介助から杖歩行見守りへと漸次改善した。歩行速度とcadenceは初回0.46m/秒、111.43歩/分、4週目0.45m/秒、96.4歩/分であり、麻痺側下肢のstep lengthも経時的に増加を認めた。歩行時の身体重心は初期時に上下へ大きくばらついた動揺を認め、非麻痺側へ変位していたが、振幅は経時的に収束し、非麻痺側への過剰偏倚も消失した。麻痺側立脚期のFyは終始後方成分を呈していたが、4週目にはその最大値が減少しており、同時期の非麻痺側下肢において前方成分の減少も認められた。麻痺側足関節は初期接地(以下IC)で底屈位を呈し、荷重応答期(以下LR)にかけて底屈Mで遠心性の筋活動が認められたが,4週目にはICの底屈角度が減少していた。麻痺側膝関節ではICで屈曲位を呈し,屈曲Mで求心性の筋活動が認められたが,経時的に屈曲Mは減少していった。麻痺側股関節では、ICで屈曲位を呈し、LRにかけて屈曲Mで遠心性の筋活動が認められたが、4週目には屈曲Mが減少していた。麻痺側骨盤帯はLRにかけて後方回旋と前遊脚期から遊脚初期の挙上が減少した。【考察】本症例の初期時の歩行は、麻痺側ICの過剰な足関節底屈と股関節屈曲による前足部接地により、LRの股関節、膝関節屈曲Mの増大が生じ、代償的な骨盤帯の後方回旋によって身体重心の前方推進が阻害され、結果的に揃型歩容を呈していたものと考えられた。そのため、遊脚期において代償的な骨盤挙上による下肢の振り出しが要求され、非麻痺側下肢の過剰なFy前方成分と身体重心の上下動揺を生じていたと思われた。4週目においては、麻痺側ICにおける足関節底屈及び股関節屈曲角度の減少が認められたことにより、LRにおける股関節、膝関節、及び骨盤帯の過剰な後方回旋に改善が得られ、円滑な前方への推進が可能となったと考えられた。