著者
庭野 賀津子 田邊 素子 庭野 道夫
出版者
東北福祉大学感性福祉研究所
雑誌
感性福祉研究所年報 = Report of Kansei Fukushi Research Institute (ISSN:13449966)
巻号頁・発行日
no.22, pp.45-58, 2021-03

言語獲得前の乳児の顔表情は感情や欲求の表出手段であり、養育者にとって養育行動を取る上での重要な情報源となる。しかし、笑顔や泣き顔などの顔表情を見たときに喚起される情緒的反応には個人差が認められ、様々な要因が脳内の活動に影響を与えていると考えられる。その個人差が生じる要因の一つとして、個人の性格特性がある。そこで本研究では、青年期成人を対象として、乳児及び成人の表情顔に対する脳反応を機能的近赤外線分光法(fNIRS)で測定し、ビッグ・ファイブの5 次元性格特性との関連性をディープラーニング(深層学習)の手法を用いて検討した。前頭前野の脳賦活のパターンを入力信号、性格特性の各指標値を出力信号として、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の手法で解析した結果、計測された脳賦活パターンから性格指標を20%以内の誤差で予測できることが分かった。また、予測精度はビッグ・ファイブの各次元によって異なり、各次元のスコアの標準誤差に依存した。この結果から、顔刺激に対する脳反応が個人の性格特性によって異なることが示唆された。今後、顔刺激以外の視覚刺激に対しても同様の実験を行い、脳賦活という生理的反応と性格特性という心理的要因の相関をディープラーニングの手法を用いてより詳細に明らかにしていく予定である。
著者
田邊素子 庭野賀津子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】近年増加している虐待の背景には育児ストレスが要因とされている。育児ストレスについて母親の報告は多いが父親では少なく,実際の虐待者が両親であることを考慮すると,男女双方の育児ストレスを検討することは重要である。これまで我々は乳児の2種類の表情認知時の若年成人の脳活動を計測し,泣き場面の方が前頭前皮質の賦活が高いことを明らかにした。また実際の育児では乳児の表情観察に加え,あやす声掛けが必要である。乳児への発話は対乳児発話(IDS:infant-directed speech)と呼ばれ,対成人に比べ,ピッチが高い,誇張されたイントネーション,遅い発話速度,などの特徴がある。IDSは母親だけではなく父親でも観察されているが,育児経験のない若年者での検討は少ない。以上から,乳児の表情視聴時およびIDS時の脳活動の性差を検証し,表情認知とIDSの脳活動にどのような傾向があるかを明らかにすることとした。【方法】被験者は健康な大学生24名(男女各12名,平均年齢21.3歳,全員が右利き)である。実験は,防音室にて実施し,背もたれのある椅子によりかかった安楽な姿勢とした。乳児の表情は刺激を統制するため録画した動画を用い,刺激呈示は26インチの液晶モニターを使用した。実験は安静・刺激を各20秒,3回繰り返すブロックデザインとし,刺激条件は乳児が泣いている場面(cry),機嫌の良い状態(non-cry)とした。乳児表情視聴時では,刺激は「乳児が何を伝えようとしているかを考える」,安静は画面上の固視点を「何も考えずに注視する」と教示した。IDS時では,刺激は画面に映る「乳児に対してあやすように発話する」,安静は画面に表示される「あいうえお」の発語と教示した。脳活動はNIRS装置(日立メディコ社製,ETG-4000)にて計測し,国際10-20法のFp1-Fp2ラインに最下端のプローブを配置した。指標はOxyHb(mM・mm)とし,刺激条件ごとに加算平均した。安静,刺激とも開始5秒後からの15秒間を解析対象としOxyHbの平均値を算出した。計側部位は前頭前皮質(PFC)の19チャンネル(Ch)とした。統計解析は,視聴時,IDS時ともに,各チャンネルのOxyHb値について,性別・刺激条件について2要因分散分析を実施した。有意水準は5%未満とし,統計ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。【結果】表情視聴時は,性別の主効果が眼窩皮質(OFC)に相当するCh39,50であり女子学生の方が男子に比べ,cry,non-cry条件ともに有意にOxyHbが高かった。前頭極(FP)に相当するCh38では刺激の主効果があり,cry条件が男女とも有意に高かった。Ch37(FP)は女子のみcry条件が有意に高かった。IDS時は,性別の主効果は全ての部位で有意ではなかった。刺激の主効果は背外側前頭前野(DLPFC)とFPに相当する9個の部位(Ch.24,25,26,27,28,35,38,39,49)で,non-cry条件が有意に高かった。【考察】OFCは報酬に関連する部位といわれ,母親の愛着とも関連するといわれている。視聴時,刺激条件に関わらず女子の脳活動が高かったのは乳児の表情を認知する過程で報酬に関連する賦活があった可能性が考えられる。IDS時には,性差はなかった。今回の対象は男女とも育児経験がないため,影響しているかもしれない。今後,育児経験のある成人でIDS時の脳活動を比較する必要がある。またIDSではcryに比べnon-cry条件でDLPFC・FP領域で脳活動が高かった。DLPFCは発動性や注意,FPは共感に活動する部位であり,乳児が泣いている場面より,機嫌が良い場面の方が発動性・注意,共感の作業を脳内で行い,声掛けをしようとした可能性が考えられる。視聴時とIDS時の比較では,IDS時が脳活動の部位が多く,乳児への発話時は,他者への共感に関連するFP,注意を担うDLPCFがより活動したと推測する。【理学療法学研究としての意義】乳児の表情の視聴時・IDS時の脳活動を検討することは,育児負担が高い障害児を持つ両親の育児ストレス対策および親性の涵養のための有益な資料となる。謝辞:本研究は,JSPS科研費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。
著者
水野 一枝 水野 康 西山 加奈 田邊 素子 水谷 嘉浩 小林 大介
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.65-73, 2017

<p>段ボールベッドが低温環境での入眠過程に及ぼす影響を検討した.対象は成人男性 12 名とし,15℃ RH 60% の環境で床の上(条件 F)と床の上に段ボールベッドを使用(条件 B)した場合の 2 条件で 13:15~15:15 に就寝した.測定項目は睡眠脳波記録,皮膚温,寝床内気候,衣服気候,就寝前後の寝具の評価,温冷感,湿潤感,快適感や睡眠感等の主観申告であった.睡眠には条件間で有意差は見られなかった.背の皮膚温は条件 B で条件 F よりも有意に高かった.寝床内温度は,背部の全就床時間,足部の睡眠後半が条件 B で条件 F よりも有意に高かった.主観申告では,条件 B で条件 F よりも寝ていた時の温冷感が有意に暖かい側,快適感も快適側,寝具も柔らかい側の申告であった.低温環境での段ボールベッドの使用は,背の皮膚温,足部と背部の寝床内温度を高く保ち,寝ていた時の主観的な温冷感,快適感,寝具の固さを改善する可能性が示唆された.</p>
著者
田邊 素子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1661, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】理学療法初年次教育における基礎医学は重要である。本学では1年次に近隣の大学の支援を得て,人体構造を実際に見学,観察する機会として解剖見学実習を実施している。学内準備として,解剖学の知識,リハビリテーション専門職への心構えや意欲の向上を促す対応を行っている。実習後の簡易アンケートでは,実習について「大変良い」等高い評価を得ているが,具体的にどのような内容を学生が学べたかについては明らかにできていない。計量テキスト分析はテキスト型データから計量的分析手法を基に,内容分析を行う方法で,文字データがあれば詳細な分析が可能である。そこで今回,参加学生の解剖見学実習後の感想レポートを分析することにより,学生がどのような考えや学びを得たかについて明らかにし,本実習の教育的効果について検討することとした。【方法】本学の理学療法学専攻1年47名(男性30名,女性17名)のレポートを対象とした。解剖見学実習の実施は,実習説明オリエンテーション,実習直前のオリエンテーション(解剖のDVD視聴を含む),実習日,実習後の課題で構成される。実習当日は,学生は4グループにわかれ,部位別ローテーション 最後に自由見学時間をとって終了する。実習後の課題には,観察部位のレポート,見学実習後の感想レポートがあり,本研究では感想レポートを解析した。解析は,フリーソフトウェアのKH Coder(樋口ら)を使用した。解析手順は,レポート本文をテキストファイルに変換し,ソフト上で前処理の後,本文から語句を抽出した。「理学療法」,「解剖見学実習」や大学名などの実習に関わる語句,「前十字靭帯」等の解剖学用語など約100語を複合語として登録し抽出した。47名全員のレポートから最頻150語を抽出し,階層クラスター分析および共起ネットワークにて内容を検討した。【結果】総抽出語は41,607語であった。最頻出の上位10語は「脳」「見る」「思う」「実習」「見学」「実際」「今回」「感じる」「自分」「筋」であった。抽出語の階層クラスター分析では12クラスターが得られた。クラスターの概要は,実習への感謝,理学療法士としての心構え,実習参加への気持ち,内臓等の観察内容,靭帯名称,教科書と観察内容の統合,脳・神経系に関する内容,解剖学と人体構造,リハビリテーションと多岐にわたった。共起ネットワーク分析では,「脳」を中心に内臓,上肢,下肢等の観察部位,「見る・思う」について実際に観察することでの理解,実習への感謝としてご献体への感謝,理学療法士と患者や治療などの関係性が明らかになった。【結論】解剖見学実習は,人体構造の具体的な理解を拡充するとともに,教科書と観察事項の統合,医療専門職としての動機付け,ご献体への感謝,など,理学療法士を目指す上で,認知領域,情意領域の双方の教育的効果が得られたと考える。