著者
庭野 賀津子
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 = Bulletin of Tohoku Fukushi University (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.221-231, 2014-03-20

1999 年に発表されたLorberbaum の研究以降,ヒトの母親の子に対する反応の神経基盤を,fMRI を用いて脳を非侵襲的に計測することによって調べる研究が進められている。本研究では,乳児の泣き声,あるいは乳児の表情などの,乳児刺激に対してヒトが示す脳反応を,fMRI によって検討している研究の動向を調査するとともに,今後の課題について検討した。対象とした資料は,1999 年から2013 年までの間に海外で発表された,乳児の泣き声に対する反応を検討した論文12 件と乳児の表情への反応を検討した論文10件であった。各資料より,乳児刺激に対する脳の賦活部位として,扁桃体,帯状回,視床下部,視床,前頭葉眼窩皮質,島,側頭極,腹側前頭前野等が示された。これらの部位は,感情,感情統制,共感,ワーキングメモリー,報酬系等にかかわることが知られており,動物実験で養育行動を引き起こす部位として示された領域と共通していた。親の養育行動の解明には,脳機能計測の他に,内分泌や心理特性,親自身の生育環境など,他の要因も併せて検討していく必要があるが,脳内の神経基盤を明らかにするためには,fMRI による脳機能イメージングは有効な手段の一つであるといえる。
著者
庭野 賀津子
出版者
東北福祉大学
雑誌
東北福祉大学研究紀要 (ISSN:13405012)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.221-231, 2014

1999 年に発表されたLorberbaum の研究以降,ヒトの母親の子に対する反応の神経基盤を,fMRI を用いて脳を非侵襲的に計測することによって調べる研究が進められている。本研究では,乳児の泣き声,あるいは乳児の表情などの,乳児刺激に対してヒトが示す脳反応を,fMRI によって検討している研究の動向を調査するとともに,今後の課題について検討した。対象とした資料は,1999 年から2013 年までの間に海外で発表された,乳児の泣き声に対する反応を検討した論文12 件と乳児の表情への反応を検討した論文10件であった。各資料より,乳児刺激に対する脳の賦活部位として,扁桃体,帯状回,視床下部,視床,前頭葉眼窩皮質,島,側頭極,腹側前頭前野等が示された。これらの部位は,感情,感情統制,共感,ワーキングメモリー,報酬系等にかかわることが知られており,動物実験で養育行動を引き起こす部位として示された領域と共通していた。親の養育行動の解明には,脳機能計測の他に,内分泌や心理特性,親自身の生育環境など,他の要因も併せて検討していく必要があるが,脳内の神経基盤を明らかにするためには,fMRI による脳機能イメージングは有効な手段の一つであるといえる。
著者
庭野 賀津子 田邊 素子 庭野 道夫
出版者
東北福祉大学感性福祉研究所
雑誌
感性福祉研究所年報 = Report of Kansei Fukushi Research Institute (ISSN:13449966)
巻号頁・発行日
no.22, pp.45-58, 2021-03

言語獲得前の乳児の顔表情は感情や欲求の表出手段であり、養育者にとって養育行動を取る上での重要な情報源となる。しかし、笑顔や泣き顔などの顔表情を見たときに喚起される情緒的反応には個人差が認められ、様々な要因が脳内の活動に影響を与えていると考えられる。その個人差が生じる要因の一つとして、個人の性格特性がある。そこで本研究では、青年期成人を対象として、乳児及び成人の表情顔に対する脳反応を機能的近赤外線分光法(fNIRS)で測定し、ビッグ・ファイブの5 次元性格特性との関連性をディープラーニング(深層学習)の手法を用いて検討した。前頭前野の脳賦活のパターンを入力信号、性格特性の各指標値を出力信号として、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の手法で解析した結果、計測された脳賦活パターンから性格指標を20%以内の誤差で予測できることが分かった。また、予測精度はビッグ・ファイブの各次元によって異なり、各次元のスコアの標準誤差に依存した。この結果から、顔刺激に対する脳反応が個人の性格特性によって異なることが示唆された。今後、顔刺激以外の視覚刺激に対しても同様の実験を行い、脳賦活という生理的反応と性格特性という心理的要因の相関をディープラーニングの手法を用いてより詳細に明らかにしていく予定である。
著者
庭野 賀津子
出版者
東北福祉大学教育・教職センター特別支援教育研究室
雑誌
東北福祉大学教育・教職センター特別支援教育研究年報 (ISSN:21850275)
巻号頁・発行日
no.13, pp.97-106, 2021-03-31

神経発達症には何らかの脳機能障害があると考えられている。近年、さまざまな脳機能画像計測法が開発されており、医学的診断の目的だけではなく、脳科学や生理心理学の研究にも応用されるようになってきた。そのため、脳機能計測を用いた神経発達症の神経基盤を解明する研究がこれまでに多くなされてきている。しかし、脳機能計測によって得られた神経発達症の脳科学的知見が特別支援教育の現場に活かされる機会は少ない。そこで、本稿では神経発達症の中でも特に注意欠如・多動症(ADHD)に焦点をあて、近年の脳科学におけるADHD の研究成果を紹介し、ADHD の理解と支援に脳科学の知見をどう活かしていくか、その可能性を検討する。
著者
佐藤 大地 庭野 賀津子
出版者
東北福祉大学教育・教職センター特別支援教育研究室
雑誌
東北福祉大学教育・教職センター特別支援教育研究年報 (ISSN:21850275)
巻号頁・発行日
no.13, pp.49-65, 2021-03-31

聴覚障害は新生児聴覚スクリーニング検査にて早期に発見され、早期からの適切な支援が行われることによって、有効な音声言語の発達を促すことが可能であると指摘されている。その早期支援の重要な役割を担っているのが、聴覚障害特別支援学校における乳幼児教育相談である。 本稿では、東北地方の聴覚障害特別支援学校14校の乳幼児教育相談を対象に実施した質問紙調査の結果より、乳幼児教育相談における支援活動と関係機関との連携に関する現状と今後の課題について検討することを目的とした。1955年代から制度的な裏付けがないまま継続されてきた聴覚障害特別支援学校における乳幼児教育相談は、担当教員による工夫や努力と関係機関との連携のうえで、教育相談が継続されてきているものの、今後検討されていくべき課題が多いことが明らかとなった。
著者
田邊素子 庭野賀津子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第50回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

【はじめに,目的】近年増加している虐待の背景には育児ストレスが要因とされている。育児ストレスについて母親の報告は多いが父親では少なく,実際の虐待者が両親であることを考慮すると,男女双方の育児ストレスを検討することは重要である。これまで我々は乳児の2種類の表情認知時の若年成人の脳活動を計測し,泣き場面の方が前頭前皮質の賦活が高いことを明らかにした。また実際の育児では乳児の表情観察に加え,あやす声掛けが必要である。乳児への発話は対乳児発話(IDS:infant-directed speech)と呼ばれ,対成人に比べ,ピッチが高い,誇張されたイントネーション,遅い発話速度,などの特徴がある。IDSは母親だけではなく父親でも観察されているが,育児経験のない若年者での検討は少ない。以上から,乳児の表情視聴時およびIDS時の脳活動の性差を検証し,表情認知とIDSの脳活動にどのような傾向があるかを明らかにすることとした。【方法】被験者は健康な大学生24名(男女各12名,平均年齢21.3歳,全員が右利き)である。実験は,防音室にて実施し,背もたれのある椅子によりかかった安楽な姿勢とした。乳児の表情は刺激を統制するため録画した動画を用い,刺激呈示は26インチの液晶モニターを使用した。実験は安静・刺激を各20秒,3回繰り返すブロックデザインとし,刺激条件は乳児が泣いている場面(cry),機嫌の良い状態(non-cry)とした。乳児表情視聴時では,刺激は「乳児が何を伝えようとしているかを考える」,安静は画面上の固視点を「何も考えずに注視する」と教示した。IDS時では,刺激は画面に映る「乳児に対してあやすように発話する」,安静は画面に表示される「あいうえお」の発語と教示した。脳活動はNIRS装置(日立メディコ社製,ETG-4000)にて計測し,国際10-20法のFp1-Fp2ラインに最下端のプローブを配置した。指標はOxyHb(mM・mm)とし,刺激条件ごとに加算平均した。安静,刺激とも開始5秒後からの15秒間を解析対象としOxyHbの平均値を算出した。計側部位は前頭前皮質(PFC)の19チャンネル(Ch)とした。統計解析は,視聴時,IDS時ともに,各チャンネルのOxyHb値について,性別・刺激条件について2要因分散分析を実施した。有意水準は5%未満とし,統計ソフトはSPSS Statistics17.0(SPSS. Japan. Inc.)を用いた。【結果】表情視聴時は,性別の主効果が眼窩皮質(OFC)に相当するCh39,50であり女子学生の方が男子に比べ,cry,non-cry条件ともに有意にOxyHbが高かった。前頭極(FP)に相当するCh38では刺激の主効果があり,cry条件が男女とも有意に高かった。Ch37(FP)は女子のみcry条件が有意に高かった。IDS時は,性別の主効果は全ての部位で有意ではなかった。刺激の主効果は背外側前頭前野(DLPFC)とFPに相当する9個の部位(Ch.24,25,26,27,28,35,38,39,49)で,non-cry条件が有意に高かった。【考察】OFCは報酬に関連する部位といわれ,母親の愛着とも関連するといわれている。視聴時,刺激条件に関わらず女子の脳活動が高かったのは乳児の表情を認知する過程で報酬に関連する賦活があった可能性が考えられる。IDS時には,性差はなかった。今回の対象は男女とも育児経験がないため,影響しているかもしれない。今後,育児経験のある成人でIDS時の脳活動を比較する必要がある。またIDSではcryに比べnon-cry条件でDLPFC・FP領域で脳活動が高かった。DLPFCは発動性や注意,FPは共感に活動する部位であり,乳児が泣いている場面より,機嫌が良い場面の方が発動性・注意,共感の作業を脳内で行い,声掛けをしようとした可能性が考えられる。視聴時とIDS時の比較では,IDS時が脳活動の部位が多く,乳児への発話時は,他者への共感に関連するFP,注意を担うDLPCFがより活動したと推測する。【理学療法学研究としての意義】乳児の表情の視聴時・IDS時の脳活動を検討することは,育児負担が高い障害児を持つ両親の育児ストレス対策および親性の涵養のための有益な資料となる。謝辞:本研究は,JSPS科研費(課題番号24530831 研究代表者 庭野賀津子)の助成を受け実施した。
著者
佐藤 久美子 梶川 祥世 庭野 賀津子 皆川 泰代
出版者
玉川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

第1に、英語の絵本の読解力に優れた子どもは、英単語の音のみならず、読み手の声の調子、絵、背景的知識、推測力など様々な学習方略を使い、内容を統合的に理解する過程が明らかになった。一方、読解力が弱い子どもは、絵にのみ集中する傾向があり、他の読解方略を有効に使うことができない、という特徴を明らかにした。第2に、母親と子どもの対話を分析し、発話力の高い子どもの母親は応答タイミングが早く、発話時間が短く、話しかける時はゆっくりと話すという特徴を見出した。こうした読み方が、子どもの理解力を促進することが解明された。