著者
由利 真 堀 弘明 千葉 健
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48102116-48102116, 2013

【はじめに】 厚生労働省の患者調査によると、精神疾患患者数は平成11年に約204万人であったが、平成20年には約323万人に増加している。精神科領域における医学的・社会的リハビリテーションは、主に医師、看護師、作業療法士によって行われてきた経緯がある。奈良は、精神疾患を有する患者に適切な身体運動を定期的に行うことの重要性を示唆し、精神科領域における理学療法(以下、PT)介入の必要性を提言している。 精神科領域におけるPT介入の効果に関する報告は増えているが、集団療法に関する研究が多く、精神科入院中の患者に対してベッドサイド(以下、Bedside)から個別療法による理学療法を行い、その効果について検討した報告はない。 本研究の目的は、精神科に入院中の精神疾患患者に対する理学療法の実施状況を調査し、適切な介入方法の一助を得ることである。【方法】 対象は、2008年4月1日から2011年9月30日の期間においてA大学病院で理学療法を実施した精神疾患患者とした。 検討項目は、精神疾患患者にPTを実施した回数(以下、PT回数)、PT開始から終了までの日数(以下、PT期間)、1週間あたりのPT実施回数(以下、PT頻度)とした。除外基準は、精神科の閉鎖病棟あるいは開放病棟に入院中以外の患者とした。精神疾患患者は電子カルテより後方視的に調査し、対象となった延べ人数は84名であり、内訳は男性39名、女性45名、平均年齢52.0±18.0歳であった。 対象の精神疾患患者は閉鎖病棟あるいは開放病棟に入院しており、PTを実施する際はBedsideあるいは運動療法室(以下、Gym)で開始されていた。本研究では、入院病棟(閉鎖病棟と開放病棟)の違いとPT実施場所(BedsideとGym)の違いの要因について、2要因分散分析を行った。なお、統計ソフトはSPSS17.0を用いて危険率は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、当院の倫理委員会の承認を得て、当院の個人情報保護のガイドラインに沿って行った。【結果】 PT回数は54.4±50.8回、PT期間は108.9±101.3日、PT頻度は3.7±1.0回/Wであった。また、閉鎖病棟に入院中でBedsideから開始した患者は23名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、79.7±60.6回、159.0±128.2日、3.6±0.6回/Wであった。閉鎖病棟に入院中でGymから開始した患者は8名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、26.1±19.9回、58.6±32.6日、3.1±1.1回/Wであった。開放病棟に入院中でBedsideから開始した患者は16名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、71.2±59.1回、139.0±101.3日、4.0±1.3回/Wであった。開放病棟に入院中でGymから開始した患者は37名であり、PT回数、PT期間、PT頻度の各値は、37.4±30.5回、75.6±67.3日、3.7±0.9回/Wであった。 PT回数とPT期間の2要因分散分析のそれぞれの結果は、入院病棟とPT実施場所の交互作用は有意ではなかったが、PT実施場所の主効果は有意であった。また、PT頻度の2要因分散分析の結果は、入院病棟とPT実施場所の交互作用は有意ではなかったが、入院病棟の主効果は有意であった。【考察】 精神疾患患者に対するPTでは、集団療法による検討が多く、個別療法を行った際のPT頻度は、1週間に1~2回程度が適度とする報告も多い。しかし、急性期の精神疾患患者に対するPTの個別訓練に関する検討は十分に行われていない。本研究のPT頻度は3.7±1.0回であり、過去の研究と比較するとPT頻度は大きな値であり、治療効果が得られるようなPT頻度であったと思われる。 本研究の2要因分散分析の結果、PT回数とPT期間には交互作用は有意ではなかったが、PT実施場所の主効果は有意であった。この結果は、PT実施場所の単独の効果であり、BedsideからPTを開始した精神疾患患者のPT回数とPT期間は増加することを示めしている。また、PT頻度の2要因分散分析の結果では、交互作用は有意ではなかったが、入院病棟の主効果が有意であった。この結果は、閉鎖病棟でPTを開始した精神疾患患者のPT頻度は有意に低い値となることを示している。これらの結果より、PTをBedsideで開始する必要がある精神疾患患者では、PT回数やPT期間を短縮させるような介入が重要であり、閉鎖病棟に入院している精神疾患患者ではPT頻度が低くならないような適切な介入方法について検討することが必要であることを本研究は示唆した。【理学療法学研究としての意義】 精神疾患患者にPTを実施する際、Bedsideで開始した場合にはPT回数やPT期間を短縮させるような介入が重要であり、閉鎖病棟に入院している場合にはPT頻度が低くならないような介入の重要性を本研究は示唆した。
著者
堀 弘明 由利 真 千葉 健 佐橋 健人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>我々は,変形性股関節症患者において健常人より腹横筋の筋活動は低下し,前額面の骨盤レントゲン画像から得られた骨盤傾斜角と大腿骨頭被覆率では腹横筋厚変化率と関連がある研究結果を得た。腹横筋の筋活動低下の原因として,姿勢や形態学的な変化のみならず筋自体の質的な変化も考えられた。近年,超音波画像を用いた筋輝度と筋力は負の相関を示すことが報告されている。そこで,本研究は筋輝度を用いて変形性股関節症患者と健常人の体幹筋の質的変化について明らかにすることを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象者は,北海道大学病院に片側変形性股関節症の診断を受け手術目的に入院し,術前理学療法を実施した患者を変形性股関節症群(19名。男2名・女19名:60.6±6.5歳)とした。また,変形性股関節症群の年齢に合わせ身体に整形疾患等の既往歴のない者を健常者群(20名。女20名:62.9±3.2歳)とした。測定項目は腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋,骨盤傾斜角とし実施日は術前理学療法開始1日目とした。</p><p></p><p>腹部筋の測定肢位は膝を立てた背臥位とし,超音波診断装置はVenue 40 Musculoskeletal(GEヘルスケア・ジャパン)を使用し画像表示モードはBモード,8MHzのプローブで撮影した。Urquhartらの測定部位を参考にして腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の境界を描出した。測定時の運動課題は,安静呼気終末として腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋を測定した。</p><p></p><p>筋輝度は,Adobe Photoshop CC 2014(Adobe Systems Inc. San Jose, CA, USA)を使用し,超音波診断装置で得られた画像から各筋の関連領域を設定し,8-bit gray-scale analuysisのhistogram functionにおいて値を求めた。</p><p></p><p>また,当院整形外科の処方により入院時に撮影した背臥位における前額面の骨盤レントゲン画像を用い,骨盤傾斜角を土井口らの方法で算出した。この方法で得られた値は,算出値が小さいほど前傾が増強していることを示す。</p><p></p><p>変形性股関節症群と健常者群の各筋の筋輝度測定についてはMann-Whitney U検定を用い,変形性股関節症群の骨盤傾斜角と各筋の筋輝度との相関ついてはSpearmanの順位相関係数を用い統計学的処理は5%未満を有意水準とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>筋輝度の比較では,腹横筋は変形性股関節症群111.8±12.0pixel,健常者群89.2±7.0 pixel,内腹斜筋は変形性股関節症群91.4±14.7 pixel,健常者群107.2±14.0 pixelとなりそれぞれ2群間で有意差(p<0.05)が認められた。</p><p></p><p>変形性股関節症群の骨盤傾斜角は17.6±3.6度であり,骨盤傾斜角と腹横筋の筋輝度は中等度の負の相関(r=-0.57。p<0.01)が認められ,骨盤傾斜角と内腹斜筋の筋輝度は中等度の正の相関(r=0.48。p<0.05)が認められた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本研究の結果から,変形性股関節症患者の腹横筋の筋輝度高値と内腹斜筋の筋輝度低値は変形性股関節症患者の骨盤傾斜角に関連し,特に腹横筋では骨盤前傾の増強により筋収縮力が低下する可能性が示唆された。</p>