著者
石田 健二 岩井 敏 仙波 毅 福地 命 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.455-459, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
14

がんは複数の遺伝子に段階的に損傷および変異が蓄積することによって起こるという「多段階発がん説」が,唯一の発がんメカニズムとして定着していた。しかし近年,ある特定の遺伝子が一つ変異するだけで短期間に正常細胞ががん化してしまうというメカニズムが存在する可能性のあることが報告されてきている1)。このような遺伝子の変異を「ドライバー変異」と呼ぶ。このタイプのがんの発生は限られており,小児がんや,白血病のような血液がんに多く見られるといわれている。その一例として,チェルノブイリ事故で多発した小児甲状腺がんが注目されている。本稿ではチェルノブイリ事故後の小児甲状腺がん発症のモデル,すなわち放射線誘発による遺伝子変異した細胞が原因ではなく,放射線による細胞死の誘導と組織微小環境の攪乱により,自然発生(散発性)の遺伝子変異細胞が,増殖を開始して発がんするというモデルについて解説する。
著者
石田 健二 岩井 敏 仙波 毅 福地 命 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.460-464, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
13

本稿では脱分化(リプログラミング)というプロセスをとらずに,甲状腺がんの発症を説明する「芽細胞発がん説」を解説し,従来から一般的な発がんモデルとして使用されてきた脱分化に伴う甲状腺がん多段階発がんモデルとの相違性ならびに関連性について解説する。
著者
石田 健二 岩井 敏 原口 和之 賞雅 朝子 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.168-173, 2021 (Released:2021-02-10)
参考文献数
7

国際放射線防護委員会(ICRP)の幹細胞生物学に関するドラフト報告書「Stem Cell Biology with Respect to Carcinogenesis Aspects of Radiological Protection」は,2015年12月にICRP Publication 131(以降「Publ.131」と記載)「放射線防護のための発がんの幹細胞生物学」として発行された。同報告書には,放射線と幹細胞の動態に関する知見が示されており,発がんリスクに対する直線しきい値なし(LNT)モデルに基づく「現行の放射線防護体系」の見直しにつながる可能性がある。
著者
石田 健二 岩井 敏 原口 和之 賞雅 朝子 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.162-167, 2021 (Released:2021-02-10)
参考文献数
14

近年,幹細胞生物学の進展が目覚ましい。特に,体内の幹細胞動態に係る研究については,国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP)も注目し,2015年12月には発がんリスクに関する幹細胞の役割に着目したICRP Publication 131(以降「Publ.131」と記載)「放射線防護のための発がんの幹細胞生物学」を刊行した。この中で注目すべき点は,「放射線による発がんの標的となる細胞は各組織内の幹細胞,場合によってはその前駆細胞であろうと考えられている(Publ.131の第1項)」ことにある。本特集では,放射線リスク研究のブレークスルーとして最近,期待感が高まっている幹細胞研究の現状を調べ,被ばくの標的細胞を「幹細胞または前駆細胞」とみなすことによってがんリスク評価にどのような変更(パラダイムシフト)がもたらされるかを解説する。
著者
石田 健二 岩井 敏 仙波 毅 福地 命 當麻 秀樹
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.450-454, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
15

これまで甲状腺がんに限らず,一般に発がんのメカニズムは,「多段階発がん説」に基づいて説明されてきた。すなわち,正常な体細胞(機能細胞)に変異が段階的に蓄積し,正常な体細胞が良性腫瘍となり,それががん化して次に悪性のがんに進展するというものである。しかし近年,“幹細胞ⅰ”の研究が進むにつれて,組織や臓器の細胞を生み出す組織幹細胞が,がんの主な発生母地であるといわれるようになってきた。本稿では,変異蓄積による「多段階発がん説」のモデルと,それでは説明できない子供に多く発生する血液がんの発症メカニズムのモデルについて解説する。