著者
疋田 真一 笠井 健
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-パターン処理 = The transactions of the Institute of Electronics, Information and Communication Engineers. D-II (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.1114-1123, 2002-06-01
参考文献数
16
被引用文献数
3

視覚目標注視中に頭部が左右に運動すると,前庭性の補償性眼球運動(LVOR)に続いて視覚による追従性眼球運動(パシュート)が起こり,視覚の安定化が図られる,これら二つの眼球運動系の相互干渉の機構を明らかにするため,頭を突然左右に加速する刺激を与え,視覚目標ありの場合と消えた目標を想起したときのLVORの速度,及び頭を静止させ目標のみを動かしたときのパシュート速度を調べた.LVORの潜時はパシュートに比べて有意に短く,目標の有無はLVORの潜時に影響を与えなかった.しかしながら,パシュート系が働き始める時刻以降は,視覚のフィードバックによりLVORの速度に大きな違い(視覚目標あり>目標想起)が現れた.並進運動中のゲイン(眼球速度/目標の相対速度)は,視覚目標ありのLVORが最も大きく,パシュート,目標想起のLVORの順に小さくなった一また,頭の運動開始直後の時間帯(〜216ms)について,目標を想起したときのLVORとパシュート速度の和は,目標ありのLVORの速度にほぼ一致した.これらの知見は,otolith系とパシュート系のそれぞれの中枢で生成された信号が重畳されて最終的な眼球運動指令がつくられていることを示唆する.
著者
疋田 真一 長田 俊治 笠井 健
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MBE, MEとバイオサイバネティックス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.387, pp.13-16, 2002-10-11

頭部直線運動時には前庭性(LVOR)および視覚性眼球運動が同時に働くことにより視覚の安定が維持される.耳石器官の信号と視覚情報の相互作用のしくみを解明するため,視覚入力としてLVORの働く向きと逆方向へ移動する目標が与えられたとき,および暗闇の中で移動目標を想起したときの眼球運動速度を調べた.その結果,視覚入力に依存した追跡性の眼球運動が生じること,視覚情報による耳石器官信号の抑制の程度には個人差があることがわかった.また,目標消去後も頭の運動(目標の動き)と同位相の眼球速度成分が観察された.したがって,視覚情報のメモリ効果は耳石器官の信号と同じかそれを上回るものだと考えられる.
著者
高橋 周作 疋田 真一 笠井 健
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. MBE, MEとバイオサイバネティックス (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.100, no.684, pp.61-68, 2001-03-14

頭部並進運動時の補償性眼球運動は Linear VOR(LVOR)と呼ばれている。頭部を正弦波状に往復運動させ、空間固定の視標を注視している最中に、この視標を消去し、これを想起させると眼球速度は急速に減少するものの、その速度の緩徐相成分は視標消去後10[sec]以内ではゼロにはならないことが報告されている。本実験の目的は、なぜこのようななめらかな眼球速度が残るのか、またどれくらいの間持続するのかを調べることである。スムーズパシュートのみでターゲットを注視し、これを消去すると、正弦波状の速度波形が見られたが、その速度は20[sec]以内でゼロになった。それに対してLVORでは視線を消去してから45[sec]経過した後でも眼球速度の緩徐相成分が残留することがわかった。この結果からスムーズパシュート系には連続的な運動を記憶する機構が存在するのではないかと考えられる。