- 著者
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目黒 智康
桒原 慶太
金子 志保
渡辺 学
新井 智之
松永 篤彦
- 出版者
- 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
- 雑誌
- 関東甲信越ブロック理学療法士学会 第25回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
- 巻号頁・発行日
- pp.80, 2006 (Released:2006-08-02)
【はじめに】本態性振戦は,姿勢時及び動作時振戦だけを唯一の神経症状とする良性の神経疾患である.また,本態性振戦の亜型として書字振戦が報告されている.この書字振戦は書字という特定の動作においてのみ出現する課題特異的振戦であり,書字動作そのものの障害だけでなく,手段的日常生活動作能力の著しい低下に繋がる可能性がある.しかし,書字振戦に対する理学療法の介入効果に関する研究報告は極めて少ない.今回我々は,書字振戦を呈した高齢患者に対して,失調症に対して弾性緊縛帯を適用し,書字振戦が改善する経験を得たので報告する.【症例紹介】症例は85歳の男性で,特記すべき既往歴はみられなかった.現病歴は誘因なく発熱,嘔吐,頚部硬直を伴って意識レベルが低下し,ヘルペス脳炎の診断を受ける.なお,パーキンソニズムや小脳失調性などの神経学的な異常所見は認められなかった.第21病日より理学療法を開始し,第30病日には院内T杖歩行が可能となった.第31病日より書字練習開始した.【初期評価】安静時には振戦はみられないものの,上肢を挙上するとわずかに手指振戦が出現し,さらにこの振戦は書字時に増悪した.感覚機能は正常であり,運動機能は,握力が右16.0kg・左12.5kg,ペグボードテストが右12本・左13本,簡易上肢機能検査(STEF)では右85点・左91点であった.さらに Mini Mental State Examinationによる得点は27点, Functional Independence Measureによる運動項目は91点であった.いずれの評価も著しい低下はみられなかった.【理学療法介入】書字振戦に対する理学療法として,弾性緊縛帯を適用した.方法は,弾性包帯で手関節を固定するように巻き,毎日1時間程度ひらがなの文章を書写する練習を繰り返し,計15日間行った.【結果と考察】書字練習開始時では弾性緊縛帯で手関節を固定した時のみ振戦が減少し書字の不均整に改善を認めたのに対して,退院時には弾性緊縛帯を適用しない状態で書字の不均整に明らかな改善がみられた.先行研究によると,弾性緊縛帯は失調症に対して固有感覚系を介して運動制御を促通する効果があると報告されている.本症例の書字振戦が改善した理由も,弾性緊縛帯により書字の際に手関節の不随意運動が制限され,書字動作時の運動制御を促通した可能性がある.また,弾性緊縛帯による書字の不均整の減少(即時効果)が書字練習時の正しい結果のフィードバックにつながり,さらにはこの学習過程が繰り返し継続されたことが書字という緻密な動作の再学習に効果的に働いたと考えられた.