- 著者
-
相内 眞子
- 出版者
- 北翔大学
- 雑誌
- 人間福祉研究 (ISSN:13440039)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, pp.1-12, 2008
アメリカにおいては,教育レベルや職業領域における性の平等が進み,高度な情報や技術をもつ専門職女性が増加し,政治家予備軍の一部になりつつあることから,女性の政治的進出にとって性差別的な文化や,社会経済上の障壁は克服されたとされてきた。しかし一方で,連邦議会の女性比率が上下両院とも2割に満たないことから,克服されたはずの「文化的障壁」の再評価に研究者の関心が向けられることになった。女性の出馬の決断には,育児を含む家庭責任を中心にした伝統的性役割規範が依然大きな影響力をもつことが明らかになり,また,列国議会同盟の調査では,女性政治家の多くが議会進出の障壁を「女性の政治参加に対する敵対的態度」としていることから,女性の政治的進出と文化との関係が再び注目されることになった。小論は,東北大学COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策」が実施した意識調査のうち,「女性政治家に対する有権者の態度」に焦点を絞り,日本社会における有権者間のジェンダー・バイアスの有無やその強度を探り,文化によって醸成された価値観と女性政治家に対する態度との関連を考察し,女性政治家を支持する有権者像を明らかにしようとしたものである。結果的には,回答者の多数が性差別主義者でないことが明らかになったものの,女性政治家を支持し投票する有権者像をクリアに描き出すことはできなかった。興味深いのは,女性政治家に対する受容度が高いグループでは,2005年の「郵政民営化選挙」における「女性刺客」戦術に対する評価が一定に高く,女性政治家の増加に対するプラグマティックなアプローチを肯定する態度が見られたことである。他方,受容度が低いグループには,女性政治家の活動分野を,福祉や教育などに限定する志向が見られ,男性政治家以上に高い倫理感を求めるなど,必ずしも性中立的とはいえない傾向が見られた。