著者
伊藤 要子 相原 真理子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ストレス環境から生体を防御するため、細胞はストレスタンパク(Heat shock protein : HSP 70)を誘導し、ストレスによる細胞傷害を素早く修復し、細胞を防御(生体防御)している。我々は従来より、HSP 70の生体防御作用を検討してきた。そして予め加温してHSP 70を誘導しておくことにより、次に来る大きなストレスによる傷害を防御できることを平成10、11年度の科研費基盤研究(C)の援助を得て報告した。そして、予備加温により筋肉疲労を防御する結果を得た。この結果は、まさしく運動能力向上を意味し、温熱療法によるHSP 70のスポーツ界への貢献の基盤となった。一方、スポーツもストレスであり、我々は、スポーツというストレスの場に自らを置き、HSP 70を誘導して健康維持に役立てている。そこで、我々は、実際の運動トレーニングに更に、要所に温熱療法を取り入れ誘導されるHSP 70によって競技能力のレベルアップを図ることを目的とした。この温熱療法を取り入れた運動トレーニングを温熱トレーニングと名づけた。そして、低温ミストサウナでの連続加温の条件決定をマウスで検討し、血中リンパ球中HSP 70は、39℃加温2週間で、下肢筋肉中HSP 70は39℃加温3週間で最大となった。よって、レスリング選手に2週間のトレーニングと終了後ミストサウナで39℃10-15分加温し、体力テスト2日前にマイルド加温を実施し、運動トレーニングのみと温熱トレーニング群で体力テストを比較した。その結果、温熱トレーニング群は、体力テスト、HSP 70、NK活性すべてで有意に勝っており、乳酸値も低下しており疲労からの回復も勝っていた。よって、従来の運動トレーニングの考えに、HSP 70の概念を導入し、様々な競技に対する練習・訓練の効果の評価にさいしてHSP 70も指標の1つとして評価する科学的トレーニングが必要と思われた。更に、スポーツを行うに際して、誰もが経験する筋肉痛に対し、これを予防する手段として、マイルド加温による予備加温を検討し有効であることが実証された。医学部学生5人に腕立て伏せ100回、スクワット100回を時間の制限無く実施させ筋肉痛実験を実施したところ、2日前にマイルド加温した予備加温群は自己評価での筋肉痛は有意に減少しており、筋硬度、CPK活性も有意に低下していた。マイルド加温によりHSP 70が誘導され、運動能力が向上することがオリンピックでも、レスリング選手によっても明らかとなった。マイルド加温をスポーツに取り入れた温熱トレーニングは、21世紀のトレーニングとして、HSP 70を指標とした科学的な最先端のトレーニングングである。また、マイルド加温の利用により21世紀のスポーツは、筋肉痛なくスポーツが楽しめる。しかし、このマイルド加温およびマイルド加温によって誘導されるHSP 70の効果は殆ど知られていないのが現況である。多くの人々にHSP 70を知っていただき、自分自身でHSP 70を高め、より健康的にスポーツを楽しんでいただきたい。