著者
相原 里美
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.21-39, 2011-03

丁玲は、1941年に短編小説『夜』を発表した。この物語の舞台は、共産党の根拠地であった延安解放区の川口(チュアンコウ)という農村で、主人公は共産党の指導員になったばかりの何華明という農民の男である。その他、地主の娘清子チンズ、十二歳年上の妻、共産党女性幹部の侯桂英の三人の女性が登場する。物語は、二章構成で、何華明が牛の出産のために自宅に戻った一夜の出来事について描かれている。当時は抗日戦争の只中であり、共産党員である丁玲としては、創作活動を通して、抗日を声高に謳わなければならなかった。しかし、女性解放を目指す文学者としての丁玲は、人々の意識下に潜む旧態依然とした封建的意識を看過することはできなかった。本稿では、「覚醒」したばかりの何華明や三人の女性を通して描かれる、共産党員丁玲の女性解放や文学者としての思想的苦悶に迫りたい。
著者
相原里美
出版者
関西外国語大学
雑誌
研究論集 (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.135-152, 2014-09

丁玲は1929年初めに短編小説『慶雲里の小部で』を発表した。この物語には、阿英という妓女の一日の生活や内面世界、妓楼での人間模様が詳細に描かれている。ここには、当時の妓女を主人公にした小説としては珍しく、女性の悲壮感や絶望感、あるいは娼妓制度への憤りなどが前面に描かれているわけではない。むしろ、阿英は妓楼での生活に満足しているかのようにさえ描かれている。その一方で、阿英は故郷の陳老三のことを思い出し、彼の元へ帰ることを何度も夢想するのだが、結局妓楼に残って妓女として働くことを選択する。本稿では、阿英を通して語られる女性の内面世界から、中国女性の近代的自我形成と性についての分析を試みたい。