著者
相馬 庸郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.45-54, 1994-09-10

「楢山節考」にはじまり、戦後文学の近代主義的性格の虚を衝く作品を発表しつづけて、特異な位相を持つ深沢七郎の現実の政治的姿勢を検証してみた。彼は共産党→全学連→赤軍派→連合赤軍→日本赤軍と支持をつづけたが、それは理論的にも党派的にも矛盾する心情的なラディカリズムで、結局彼の求めたのは、彼の深部にある一種の「千年王国」とでも言うべきものであった。そこに深沢的反逆の特質があった、と私は考える。
著者
相馬 庸郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.46-55, 1992-01-10

戦後日本の演劇史上に独自の位置を占める秋元松代の戯曲「常陸坊海尊」は、秋元が柳田国男の民俗学とめぐりあうことによって、その創作が可能になったものである。秋元は、柳田によって知らされた海尊伝説という民間伝承の持つ意味と、戦中戦後の学童疎開や人間における「性」の呪縛という現代的な問題とを縦横にからませ、独自で深い演劇空間を作りあげた。それは、当時の秋元のとらえられていた深い苦悩にカタルシスをもたらすと共に、その後の秋元の歩みを決定づけるものとなった。
著者
相馬 庸郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.13-23, 1989-12-10

柳田国男の新体詩や初期の詩的散文につき、後年の民俗学の達成点から逆照射して評価しようとする傾向が最近みられるが、それは避けられなければならない。それに対してわたしは、新しい時代における「夕暮情緒」を歌った詩、「清き君」という語に象徴される独自な恋愛詩、近代日本人の持つ故郷意識を歌った詩、近代詩史上「抒情小曲」と言われるものの先蹤になっている小詩などに、初期の柳田が持っていた詩的感性の特徴を見てゆきたいと思う。