著者
大槻 美佳 相馬 芳明
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.182-192, 1999 (Released:2006-04-25)
参考文献数
21
被引用文献数
6 3

音韻性錯語と語性錯語の出現と病巣の関連を検討した。音韻性錯語については呼称と復唱で,その出現率を比較した。左中心前回損傷群ではその出現率に差異は認めず,左後方領域損傷群 (側頭-頭頂葉) では復唱よりも呼称でその出現率が有意に高かった。このことより,音韻性錯語は,音韻の取り出し・再生・実現のさまざまな過程の障害で出現し得ること,さらに,左中心前回損傷群ではモダリティーの違いに左右されない音韻実現過程の障害,また左後方領域損傷群では復唱で与えられる音が手がかりとなるような音韻の取り出し・再生過程の障害である可能性が示唆された。語性錯語については,意味性錯語と無関連錯語の出現頻度を検討した。左前頭葉損傷群では両者の出現率に有意差は認められなかったが,左後方領域損傷群 (側頭-頭頂-後頭葉) では意味性錯語の出現率が無関連錯語の出現率より有意に高かった。この傾向は重症度や検査時期に依存しなかった。このことは左前頭葉損傷群では目標語近傍の意味野へ適切に access する過程の障害,また左後方領域損傷群では目標語近傍の意味野への access は可能だが,さらに厳密な目標語の選択・障害の過程に障害があると推測された。
著者
大槻 美佳 相馬 芳明 青木 賢樹 飯塚 統 吉村 菜穂子 佐原 正起 小山 晃 小島 直之 辻 省次
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.243-248, 1998-03-01

目的:左前頭葉内側而損傷群と背外側面損傷群の視覚性呼称能力と語列挙能力を比較検討した。対象・方法:11例の超皮質性運動失語を呈する右利き脳梗塞または出血患者。病巣はCTまたはMRIにて同定した。視覚性呼称能力としてWAB失語症検査V-Aの20物品の呼称課題を,語列挙能力として同V-Bの語想起課題を用いた。結果・考察:左前頭葉内側面損傷群は視覚性呼称が良好であるのに対し語列挙が不良であった。外側面損傷群では視覚性呼称,語列挙いずれも不良であった。この結果から左前頭葉内側面は語列挙に,背外側面は視覚性呼称に重要であることが推測される。サルの実験において,前頭葉背外側面にある前頭前野は視覚誘導性の動作に,内側面にある補足運動野は記憶依存性の動作に関与することが知られている。 言語においては視覚性呼称は視覚誘導性の動作に,語列挙は記憶依存性の動作に対応すると考えられる。したがって,本結果は行為における前頭葉背外側面と内側面の機能的相違が言語機能においても当てはまることを示唆する。