- 著者
-
大槻 美佳
- 出版者
- 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
- 雑誌
- 高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, no.2, pp.194-205, 2009-06-30 (Released:2010-07-01)
- 参考文献数
- 49
- 被引用文献数
-
4
失語症を理解するには,脳を音素・音韻に関する領域 (phonetic & phonemic area) と,内容・語と語の関係に関する領域 (content & context area) の二大機能系に分けて考えるとわかりやすく,この機能系とその解剖学的基盤を基本的視点として提示した。 また,失語症を分類するには質的な評価が必要であり,これを重症度や経時的変動の評価に適している量的尺度と使い分けることが妥当であること,さらに発語の分類は流暢・非流暢ではなく,失構音の有無で判断するのが有用であること,復唱能力の判断に苦慮した場合には音韻性錯語の有無,言語性短期記憶障害の有無を援用することが有用であることを指摘した。 次に,言語の要素的症状の局在地図と,古典的失語型との関係を概説し,未解決問題として,超皮質性運動失語の位置づけ,皮質下性失語の特徴,文レベルの障害について考察した。 最後に,言語機能に影響を与える非言語的背景について検討した。まず,意図性と自動性の解離について,ウェルニッケ失語患者における復唱能力が,あえて復唱を意識しない場合のほうが良好であることを示した。次に,呼称課題について,最初の語が出やすいことも定量的に示した。これは,とくに側頭葉に病巣が及んでいる患者で明らかであり,病巣による違いも考慮すべきことが推測された。最後に,呼称課題を行う際に,右半球に負荷がかかるような課題と交互に施行すると呼称の成績が改善した1 例を報告した。以上より,失語症に対峙する場合,非言語性の要因も考慮することが重要であることを指摘した。