著者
高倉 祐樹 大槻 美佳
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.226-237, 2021-12-25 (Released:2022-01-12)
参考文献数
77

Ardilaの新しい失語症分類に対する有用性の検討を軸として,失語症に関する最近の知見について概説した.失語症分類については,従来のカテゴリー的な分類を解体し,発話運動・音韻・意味などの言語システムを構成する要素的症候に基づいて,多次元的に病像を捉える方法が有用であることを指摘した.評価法については,課題の正答率ではなく,「誤り方」から障害パターンを分析する新たな検査(Mini Linguistic State Examination:MLSE)の開発が進んでいることを紹介した.最後に,オープンサイエンスとAI(artificial intelligence)時代の失語症研究においては,失語症の症候学の重要性はむしろ増大していることを指摘した.

8 0 0 0 OA 失語症

著者
大槻 美佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.194-205, 2009-06-30 (Released:2010-07-01)
参考文献数
49
被引用文献数
4

失語症を理解するには,脳を音素・音韻に関する領域 (phonetic & phonemic area) と,内容・語と語の関係に関する領域 (content & context area) の二大機能系に分けて考えるとわかりやすく,この機能系とその解剖学的基盤を基本的視点として提示した。  また,失語症を分類するには質的な評価が必要であり,これを重症度や経時的変動の評価に適している量的尺度と使い分けることが妥当であること,さらに発語の分類は流暢・非流暢ではなく,失構音の有無で判断するのが有用であること,復唱能力の判断に苦慮した場合には音韻性錯語の有無,言語性短期記憶障害の有無を援用することが有用であることを指摘した。  次に,言語の要素的症状の局在地図と,古典的失語型との関係を概説し,未解決問題として,超皮質性運動失語の位置づけ,皮質下性失語の特徴,文レベルの障害について考察した。  最後に,言語機能に影響を与える非言語的背景について検討した。まず,意図性と自動性の解離について,ウェルニッケ失語患者における復唱能力が,あえて復唱を意識しない場合のほうが良好であることを示した。次に,呼称課題について,最初の語が出やすいことも定量的に示した。これは,とくに側頭葉に病巣が及んでいる患者で明らかであり,病巣による違いも考慮すべきことが推測された。最後に,呼称課題を行う際に,右半球に負荷がかかるような課題と交互に施行すると呼称の成績が改善した1 例を報告した。以上より,失語症に対峙する場合,非言語性の要因も考慮することが重要であることを指摘した。
著者
高倉 祐樹 大槻 美佳 中川 賀嗣
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.38-44, 2018-03-25 (Released:2018-04-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1

純粋失構音における病巣部位と発話症状との関係,定量的指標からみた発話特徴,脳血管疾患と変性疾患による症状の差異について解説した.脳血管疾患による失構音は,1)構音の歪み優位,2)音の途切れ優位,3)構音の歪みと音の途切れが同程度,4)音の途切れなし,の4タイプに分類できる可能性を指摘した.さらに,変性疾患による失構音においては,音の途切れが目立たないにも関わらず,発話所要時間の著明な延長が認められるタイプが存在する可能性が示唆された.最後に,失構音の評価・分類にあたっては,構音の歪み,音の途切れ,発話所要時間といった発話特徴に着目し,そのコントラストを検証することが有用である可能性を述べた.
著者
大槻 美佳
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.374-380, 2018 (Released:2018-02-20)
参考文献数
13

We need to understand aphasia in terms of two points of view. One is the viewpoint of system of language, and the other is the viewpoint of brain function. Language systems are hierarchically constructed, for instance, acoustic system (hearing and speech), phonetic system (discrimination of language sounds and articulation control), phonemic system and lexical/semantic system. Language impairments can be developed of each system as language symptoms. And there are corresponding lesion sites in the brain for each elementary language symptoms such as anarthrie/apraxia of speech, impairment of discrimination of language sound (word deafness), phonemic paraphasia, word comprehension impairment, word retrieval impairment and so on. Classical aphasia classification are vascular syndromes and can be explained as the syndromes made of the elementary symptoms.
著者
高倉 祐樹 大槻 美佳
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.258-274, 2016-12-15

失構音の病態に関する下位分類を試み,その機序の差異を検討した.対象は失構音を呈した患者10名(2名は軽度の失語症を合併),失構音を伴わないディサースリア患者2名の計12名の患者群(69.0±11.7歳)と健常群16名(65.5±16.0歳)である.聴覚心理学的評価の結果,失構音群は①構音の歪み優位,②音の連結不良優位,③歪みと連結不良が同程度,④連結不良なし,の4タイプに分類可能であった.各タイプの病巣は,①左中心前回後方,②左中心前回前方・運動前野,③左傍側脳室皮質下,④左被殻・視床,と相違を認めた.各タイプの病態をDIVA(Direction in sensory space Into Velocities of the Articulators)モデルに基づき解釈すると,①はArticulator Velocity and Position Mapsの障害,②はSpeech Sound Mapの障害,③は①と②の合併,④は発話のフィードバック制御系の障害と捉えると,それぞれの症状の差異が説明可能であり,病巣との整合性も高いと考えた.
著者
大槻 美佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.231-243, 2007-09-30 (Released:2008-10-01)
参考文献数
39
被引用文献数
8 9

要素的症状と責任病巣の関係は以下に集約される。(1)アナルトリー:左中心前回中下部およびその皮質下,(2)(アナルトリーを伴わない)音韻性錯語:左上側頭回~縁上回~中心後回およびそれらの皮質下,(3)単語理解障害:左中前頭回,左上·中側頭回後部,およびそれらの皮質下,(4)喚語困難:左下前頭回,左角回,左側頭葉後下部およびそれらの皮質下。責任病巣が複数ある(3)や(4)は,同じ要素的症状でも,前頭葉損傷と後方領域損傷で,その障害内容が異なり,検査の工夫で相違を明らかにできた。その結果,前頭葉は理解や喚語に関して,おおまかなカテゴリーなどを指南する役割をもち,後方領域はその指南を受け,さらに厳密な情報へアクセスする役割を持つことが推測された。また,左側頭葉前方部損傷患者の特異な語想起障害のパターンから,左側頭葉前方部は意味を手がかりにした語想起に関与することが示唆された。側頭葉の損傷では,さらに,カテゴリー特異性のある障害が認められた。また,機能画像における知見は,タスク施行時のストラテジーを統制することで,臨床知見と整合することが示唆された。
著者
大槻 美佳
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.179-186, 2009-03-20 (Released:2017-06-02)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

脳梁損傷は,たとえ部分の損傷でも,損傷部位によってさまざまな症状が出現する.脳梁で,機能的に重要でない部位はないといえるほどである.しかし,多くの脳梁離断症状は,日常生活に大きな影響を与えることなしに,数週間で改善する.ただし,中には患者の日常生活に多大な影響を与える症状もある.例えば,行為障害や発話に関する障害である.これらに対しては,その障害の評価と適切なアプローチが必要である.本レビューでは,脳梁損傷によって出現する症状を概説し,その脳梁内の解剖学的な関連部位の最新の知見を提供する.
著者
高倉 祐樹 大槻 美佳 中川 賀嗣 大澤 朋史 谷川 緑野
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.411-421, 2011-12-31 (Released:2013-01-04)
参考文献数
31
被引用文献数
1

発症時から失語症を認めず, 言語性短期記憶 (Short-Term Memory : STM) に選択的な障害を呈した 1 例を報告した。本例の知見から, 言語性 STM の解剖学的基盤は優位半球の側頭弁蓋~横側頭回近傍と示唆された。本例は数唱に比べ, 明確な意味を伴い, かつ同じ音韻系列を持つ文の復唱が良好 (例 : “8-2-3-1”の数唱は困難だが, “蜂に刺されて散々な一日だ”という文の復唱は可能) , 桁数付き数字の復唱が良好 (例 : “7-2-3”の数唱は困難だが, “ななひゃくにじゅうさん”の復唱は可能) , 無意味語系列に比べ有意味語系列の再生が良好であった。以上から言語性 STM における「容量」は必ずしも音韻情報量に依存せず, 意味の付与や情報のチャンク化の効率により決定されると考えられ, 既報告を支持した。さらに, 刺激提示の時間間隔や素材の変化により把持成績には差異が生じており, 援用されるストラテジーもそれぞれ異なる可能性が示唆された。
著者
大槻 美佳
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.179-186, 2009-03-20

脳梁損傷は,たとえ部分の損傷でも,損傷部位によってさまざまな症状が出現する.脳梁で,機能的に重要でない部位はないといえるほどである.しかし,多くの脳梁離断症状は,日常生活に大きな影響を与えることなしに,数週間で改善する.ただし,中には患者の日常生活に多大な影響を与える症状もある.例えば,行為障害や発話に関する障害である.これらに対しては,その障害の評価と適切なアプローチが必要である.本レビューでは,脳梁損傷によって出現する症状を概説し,その脳梁内の解剖学的な関連部位の最新の知見を提供する.
著者
大槻 美佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.297-303, 2015-09-30 (Released:2016-10-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1

進行性非流暢性失語 (PNFA/nfvPPA) 24 例を対象に, 神経学的所見, 神経心理学的所見, 画像所見, および経過を検討した。その結果, 少なくとも 3 群に分類された。(1) 前頭葉性失語型 (古典的失語症分類ではブローカ失語, 超皮質性運動失語に該当する言語症状を呈する群) , (2) 前部弁蓋部症候群型, (3) 純粋失構音型である。(1) は発症 3 ~5 年以内に, bvFTD と同様の精神症状や行動異常を呈した。(2) は発症早期に流涎や口部顔面失行を呈し, 1 ~3 年以内に嚥下障害を呈した。(3) は失構音のみ進行する場合, 失調症状を伴う場合, 発症から 2 ~5 年以内に, パーキンソニズムや中心回症状を呈し, CBS と診断されるに至った場合など, いくつかの亜型分類がさらに可能であった。これらの群は, 画像診断で明らかな所見が得られない時期でも, 初診時の症候学的検討で, 分類することが可能であると考えられた。
著者
大槻 美佳
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.262-271, 2021-12-25 (Released:2022-01-12)
参考文献数
32

書字よりも,PC(personal computer)におけるキーボード打ちや,携帯/スマートフォンのテキスト入力のほうが一般的になった昨今の日常生活の変化は,臨床症候にも影響を与えている.それは,従来,書字障害を出現させる部位の損傷で,キーボード打ちの障害(タイピング障害)がみられるようになったことである.これは失語・失書・失行その他の視空間処理障害によるものでない,タイピングに特異的な障害と考えられ,dystypia(失タイプ)と命名された.病巣は,既報告では前頭葉または頭頂葉が多い.さらに,携帯/スマートフォンでテキストメッセージを作成・送信できない症候がdystextiaと称されて報告された.dystextiaはまだ十分症候として確立していないが,今後の検討が必要である.本稿では,これらの新しい症候の今日までの報告を整理する.
著者
大槻 美佳
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.171-180, 2021-09-25 (Released:2021-10-13)
参考文献数
39

進行性非流暢性失語(nfvPPA)の診断に必要な要素的言語症候とその病巣,診断基準に準拠した診断手順を概説し,今日のトピックスを取り上げた.トピックスは以下である.1.発語失行のみを呈する群はPPAOS(primary progressive apraxia of speech)として,区分されるようになった.2.文産生障害が前景になる一群は,病状の進行とともに前頭前野の機能低下を示し,bvFTDに類似の病像になる可能性が高い.3.背景病理として,PPAOSは4リピートタウオパチーが多く,その他,TDP-43プロテイノパチー,3リピートタウオパチー(ピック病)などが報告されているが,出現頻度は報告により異なり,症候と疾患単位の関係はまだ十分確立していない.4.特殊型として,進行性前部弁蓋部症候群(進行性Foix-Chavaney-Marie症候群)を呈する一群があり,TDP-43プロテイノパチーを呈し,筋萎縮性側索硬化症と同様の疾患スペクトラムである可能性が示唆されている.
著者
結城 美智子 大槻 美佳
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

脳卒中後病的疲労(Post Stroke Fatigue: PSF)は発症率が高く、機能回復・社会生活復帰の阻害要因となり、慢性的な経過を経てフレイルや寝たきりをもたらす重篤な後遺症の一つである。PSFはそのメカニズムは解明途上にあり、発症時期も一定ではないこと、非薬物療法において有効な介入は十分に証明されていないが先行研究で示されている。そこで本研究では、脳卒中患者のフレイル予防の観点からPSFに着目し、急性期から適切に把握し、その改善にむけて有効なケアプログラムを構築すること、同時に、PSFの重症度に関連する生体指標を探索し、この指標も活用し、ケアプログラム介入効果を評価することである。
著者
大槻 美佳 相馬 芳明
出版者
日本失語症学会 (現 一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)
雑誌
失語症研究 (ISSN:02859513)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.182-192, 1999 (Released:2006-04-25)
参考文献数
21
被引用文献数
6 3

音韻性錯語と語性錯語の出現と病巣の関連を検討した。音韻性錯語については呼称と復唱で,その出現率を比較した。左中心前回損傷群ではその出現率に差異は認めず,左後方領域損傷群 (側頭-頭頂葉) では復唱よりも呼称でその出現率が有意に高かった。このことより,音韻性錯語は,音韻の取り出し・再生・実現のさまざまな過程の障害で出現し得ること,さらに,左中心前回損傷群ではモダリティーの違いに左右されない音韻実現過程の障害,また左後方領域損傷群では復唱で与えられる音が手がかりとなるような音韻の取り出し・再生過程の障害である可能性が示唆された。語性錯語については,意味性錯語と無関連錯語の出現頻度を検討した。左前頭葉損傷群では両者の出現率に有意差は認められなかったが,左後方領域損傷群 (側頭-頭頂-後頭葉) では意味性錯語の出現率が無関連錯語の出現率より有意に高かった。この傾向は重症度や検査時期に依存しなかった。このことは左前頭葉損傷群では目標語近傍の意味野へ適切に access する過程の障害,また左後方領域損傷群では目標語近傍の意味野への access は可能だが,さらに厳密な目標語の選択・障害の過程に障害があると推測された。
著者
大槻 美佳
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.197-203, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
10

非定型な症状を呈した患者を通して, 音韻処理について考察した。本患者は, 言語表出は, 自発話のみでなく, 呼称, 復唱, 書字など全ての表出で, 音韻性錯語, 新造語, 音韻性ジャルゴンが中心であったが, 一方, 言語理解は, 聴覚的には単語レベル, 視覚的には (文字呈示) , 文レベルでも可能であるという乖離を示した。また, 「1 音を聞いて, 該当する仮名文字を選択する」課題も全くできなかったが, 詳細に調べると「1 音」の弁別・認知は可能で, かつ, 「仮名文字」の弁別・認知も可能であることが明らかになった。本患者の症候から, いわゆる ‘音韻処理障害’ には, これまで言及されてきたような, 音韻の認知・喚起・選択・把持・配列などの障害のみでなく, 記号としての役割はある程度果たせるものの, 音響的な表出や文字表出という次のステップに利用できないという壊れかたもある可能性が推測される。
著者
竹腰 顕 吉倉 延亮 小澤 憲司 生駒 良和 北川 順一 竹島 明 大槻 美佳 中道 一生 西條 政幸 大江 直行 望月 清文 柿田 明美 下畑 享良
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.281-286, 2019-03-01

症例は62歳男性で,悪性リンパ腫に対する臍帯血移植後に急激な視力低下をきたした。頭部MRIにて両側頭頂葉および後頭葉の皮質下白質〜深部白質に高信号域を認め,脳生検および脳脊髄液中JCウイルス(JCV)検査にて進行性多巣性白質脳症(PML)と診断した。経過中にBálint症候群を合併したが,塩酸メフロキンとミルタザピンの併用療法によりBálint症候群および頭部MRI所見は改善し,脳脊髄液中JCVは陰性化した。PMLではBálint症候群を合併し得ること,ならびに塩酸メフロキンとミルタザピン併用療法は有効であることを示した。
著者
大槻 美佳 相馬 芳明 青木 賢樹 飯塚 統 吉村 菜穂子 佐原 正起 小山 晃 小島 直之 辻 省次
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.243-248, 1998-03-01

目的:左前頭葉内側而損傷群と背外側面損傷群の視覚性呼称能力と語列挙能力を比較検討した。対象・方法:11例の超皮質性運動失語を呈する右利き脳梗塞または出血患者。病巣はCTまたはMRIにて同定した。視覚性呼称能力としてWAB失語症検査V-Aの20物品の呼称課題を,語列挙能力として同V-Bの語想起課題を用いた。結果・考察:左前頭葉内側面損傷群は視覚性呼称が良好であるのに対し語列挙が不良であった。外側面損傷群では視覚性呼称,語列挙いずれも不良であった。この結果から左前頭葉内側面は語列挙に,背外側面は視覚性呼称に重要であることが推測される。サルの実験において,前頭葉背外側面にある前頭前野は視覚誘導性の動作に,内側面にある補足運動野は記憶依存性の動作に関与することが知られている。 言語においては視覚性呼称は視覚誘導性の動作に,語列挙は記憶依存性の動作に対応すると考えられる。したがって,本結果は行為における前頭葉背外側面と内側面の機能的相違が言語機能においても当てはまることを示唆する。