著者
矢口 瞳 星野 義延
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.2039, 2021-08-31 (Released:2021-12-31)
参考文献数
72

武蔵野台地コナラ二次林において、植生管理や管理放棄による植物と昆虫の機能群ごとの種数への影響を把握するため調査を行った。更新伐採、下刈り・落葉掻き、常緑樹の除伐といった管理が行われた林分と放棄された林分で植生調査、昆虫のルートセンサス調査とピットフォールトラップ調査を行った。植生調査で 175種の植物が確認され、ルートセンサス調査で 243種、ピットフォールトラップ調査で 56種の昆虫が確認された。植物の機能特性としてラウンケアの休眠型、葉の生存季節、生育型、地下器官型、花粉媒介様式、開花・結実季節、種子散布型、種子重を、昆虫の機能特性として幼虫と成虫の食性、成虫の出現季節、成虫の体長を文献で調べた。機能特性データを用いて、クラスター解析により機能群に分類した結果、植物は 8つの機能群( PFG)、昆虫は 6つの機能群(IFG)に分類された。 PFGの分類には種子散布型と結実季節が大きく影響し、管理されたコナラ二次林に典型的な草本種や埼玉県レッドデータブック掲載種を含む機能群、コナラ二次林に典型的な木本種を含む機能群、遷移の進行を指標する常緑植物を含む機能群などに分けられた。 IFGの分類には食性と体サイズが大きく影響し、小型・中型・大型別の植食昆虫機能群、肉食昆虫を含む機能群、糞食・腐肉食昆虫を含む機能群に分けられた。植物の種ごとの被度と昆虫の種ごと出現回数を標準化して統合し、 CCAによる調査区と種の序列を得た。また PFG種数と IFG種数を統合し、 RDAによる調査区と機能群の序列を得た。植物の種と機能群は落葉掻きや下刈りなどによる土壌硬度や堆積落葉枚数の変化と関連がみられ、昆虫の種と機能群は伐採や常緑樹の除伐による樹冠開空度の変化と関連がみられた。植物機能群は伐採と下刈り・落葉掻きによりコナラ二次林に典型的な草本種を含む機能群の種数が増加し、管理放棄により常緑植物を含む機能群の種数が増加した。昆虫機能群はすべての管理により小型植食昆虫機能群の種数が増加し、伐採により大型植食昆虫機能群の種数が増加した。以上より、林床の管理が植物の、高木層や低木層の管理が昆虫の機能群構成に大きく影響していた。本研究の植物と昆虫の機能群の分類はコナラ二次林での伐採や下刈り・落葉掻き、常緑樹の除伐といった植生管理の種多様性保全効果の指標として有効と言える。