著者
矢野 翔平 伊藤 弘大 山下 真由 高嶋 和毅 伊藤 雄一
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.1002-1013, 2023-05-15

一般的な教育現場では,教師が生徒の理解状況を把握するために,テストを実施したり,机間巡視をして問題解答の様子を観察したりする.しかし,教師の能力や状況によっては正しく理解状況を把握できていない場合がある.近年では,情報技術を用いた学習支援システムが発達し,学習時の情報を取得することが容易になった.一方,情報教材が普及してきたとはいえ,現在最も普及している学習方法はペンを用いてノートに筆記するものである.また,紙を使用して学習する方が,電子デバイスを使用して学習するよりも優れているという結果が報告されている.そこで本研究では,筆記行動から理解状況を推定する手法を検討する.筆記量や筆記速度は,理解状況と相関があるといわれており,学習者の理解状況が筆記行動に表れていると考えられる.理解状況の評価には,解答した問題の正誤判定と学習者の解答に対する自信度を組み合わせて評価する統合評価法を用いる.また,筆記行動取得の手段として,学習者のペンを握る力(ペン把持力)を用いる.60名の実験データより,理解状況は,特に解答時間やペン把持力の平均変化量に表れていることが確認された.また,ペン把持力には自信度の影響が強く表れていることが分かった.理解状況の推定精度を評価したところ,圧力センサ付きペンから得られる情報と解答用紙から得られる情報(解答情報)を組み合わせることで72.1%の推定精度が得られた.