著者
矢野 重信 木下 勇
出版者
奈良女子大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

1.光機能を兼ね備えた触媒機能を持つ錯体の設計・構築は、人工光合成や環境親和型酸化反応触媒等の機能を開発する上で重要なステップとみなされる。本研究はポルフィリンを光機能性部位として、酸化反応性を持つと見られる多核錯体に組み込んだ複合系の設計・構築を目指した。すなわちポルフィリンを機能性錯体の配位子として機能性多核錯体への組み込み、および機能性部位を持つスペシャルダイマーモデルの構築について検討した。2.酸化触媒活性部位として三脚型三座配位子の1,4,7-trimethyltriazacyclononane(Me_3-TACN)を用いて2つのFe(Me_3-TACN)ユニットを5-(o-,m-,p-carboxyphenyl)-10,15,20-triphenylporphyrin(TPPCOOH)亜鉛錯体のカルボン酸によって、ヘムエリトリン型架橋したものを合成した。2,6-[5-(n-carboxylamidophenyl)-10,15,20-triphenylporphyrin]pyridinは脱プロトン化して金属に配位しうる非環状アミド部分とポルフィリン部分をともに含んだ構造をしている。この集積系はTPPNH_2が2,6-[5-(n-carboxylamidochlo ride)]とアミド結合し、スペシャルペアーのモデルとしての構造を設計構築、更に連結部分に新たな反応部位を導入しようとする物である。スペシャルペアー類似構造を取るためには二つのポルフィリンの相対的配置が問題となる。そこでo-,m-,p-位にアミノ基を持つフェニル基を有するポルフィリンと縮合し、一連の異性体を合成した。p-,o-異性体の立体構造についてはX線構造解析によって解明した。p-異性体では二つのポルフィリン環とアミド部位が同一平面上に存在し、アミド部位への包接構造には有利であるが、スペシャルダイマー構造としては不適当であると考えられる。o-異性体は結晶中では二つのポルフィリン環は直交しており、そのうち一つはアミド部位とほぼ並行に、もう一つは垂直に位置している。電気化学的測定ならびに電子吸収および過渡吸収スペクトルの測定結果から、溶液中では結晶中と異なりo-位に異性体を持つ異性体のみ、ポルフィリン環同士のスタッキングに起因するとみなされるな様々な現象を示すことを見いだした。
著者
矢野 重信 小宮 克夫 加藤 昌子 塚原 敬一 佐藤 光史
出版者
奈良女子大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1991

当研究室では生体中での酵素系の作用機序を念頭において、アミノ酸や糖質などの生体関連物質と遷移金属イオンとの相互作用に対して配位立体化学的に詳細な検討を行い、それらに高度な立体化学制御機能を賦与することを目指し研究を進めてきた。本研究では、我々のこれまでの蓄積を基盤にして、分子識別能を有する金属錯体を設計し立体化学制御に関する知見を広げ、さらに当研究室で独自に開発した金属錯体の化学修飾法を用いて金属錯体を機能素子とする高分子錯体等の高機能性複合系の開発を目指し研究を行った。まず光学活性なポリアミンとエチレンジアミン二酢酸型配位子の混合配位Co(III)錯体の立体化学制御機構について詳細に検討した。その結果複数個の配位窒素原子に対するアルキル基の位置選択的置換により金属錯体の絶対配置を高度に制御できることを明らかにした。また分子間の水素結合を介する分子識別能を有する金属錯体の設計を目指して、二糖のNi(II)グリコシルアミン錯体の合成とキャラクタリゼーションを行った。良好な結晶が得られたD-マルトース錯体についてX線結晶構造解析を行った。その結果、二糖分子内での水素結合が見られた他、錯体分子が糖ユニットの水酸基間での水素結合を介して二量化していることが判明し、金属錯体による分子識別能の発現にとって重要な知見を得た。さらに非配位の水酸基を有するポリアミノポリカルボン酸を配位子とする陰イオン性Co(III)錯体に対し、当研究室で独自に開発したクリプタンド可溶化法を用いる各種酸無水物との反応により錯体の非配位の水酸基を反応点とするエステル化に成功した。脂肪酸無水物の場合には水中でミセル形成能を示す金属錯体をヘッドグループとする新規界面活性剤の開発に成功した。さらに高分子化可能なクロトン酸およびメタクリル酸残基が連結した錯体の合成にも成功した。以上の知見を基に金属錯体の高電子化について検討している。