著者
岩佐 一 石井 佳世子 吉田 祐子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-047, (Released:2022-10-28)
参考文献数
53

目的 「健やか親子21(第2次)」では,父親の育児参加の促進が目標のひとつにあげられており,積極的な促進が望ましい。父親の育児参加の関連要因を明らかにすることによって,父親の育児参加を促進するための施策に資する知見を提出できることが考えられる。本研究では,子育て期の父親を対象として調査を実施し,性別役割分業観ならびに母親からのソーシャルサポートと父親の育児参加の関連について検討することを目的とした。方法 インターネット調査会社に委託し,3か月~6歳の子どもを養育する父親360人(25~50歳,全て常勤職員)を対象としてインターネット調査を実施した。目的変数として,「父親の育児・家事参加尺度」(11項目,4件法,例「子どもの世話」,「料理」)における「育児」得点,「家事」得点を,説明変数として,性別役割分業観(「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」,4件法)ならびに母親(父親の配偶者・パートナー)からのソーシャルサポート(評価的サポート,情緒的サポート,手段的サポート)を,統制変数として,父親の年齢,母親の就労状況,子どもの人数,末子の年齢,保育園・幼稚園の利用,育児支援サービスの利用,低い経済状態自己評価,平日の労働時間,夫婦関係満足度を測定した。従属変数として「育児」得点,「家事」得点を,独立変数として性別役割分業観とソーシャルサポート,性別役割分業観とソーシャルサポートの交互作用項,上述した統制変数を一斉投入した重回帰分析を行った。結果 分析対象者は360人であった(平均年齢36.8歳,標準偏差5.6)。重回帰分析の結果を以下に記す。性別役割分業観は,「育児」得点(β=−0.103),「家事」得点(β=−0.125)と有意に関連した。評価的サポートは,「育児」得点(β=0.142),「家事」得点(β=0.199)と有意に関連した。性別役割分業観・手段的サポートの交互作用と「育児」得点との関連が有意であったため(β=0.176),単純傾斜解析を行ったところ,性別役割分業観が高い者では,手段的サポートと「育児」得点との関連が有意であった(β=0.242)。結論 平等的な性別役割分業観を持つ父親,評価的サポートを受ける父親は育児参加する傾向にある可能性が示唆される。また,伝統的な性別役割分業観を持つ父親において,手段的サポートを受ける者ほど育児参加する傾向にある可能性が示唆される。
著者
岩佐 一 石井 佳世子 吉田 祐子 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.42-50, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
36

目的 子育ては心身ともに負担の大きい活動である。子育て期の女性は,育児・家事の過重負担や児からの頻繁な要求により常態的に注意力が制限されやすいこと,認知機能が低下しやすいことから,様々な失敗(「認知的失敗」)を経験しやすいことが考えられる。本研究では,3か月~6歳の児を養育している女性を対象として調査を行い,①認知的失敗尺度であるShort Inventory of Minor Lapses(SIML)の日本語版を開発し,②認知的失敗尺度の計量心理学的特性(因子分析,妥当性の検証,信頼性の検証,分布形状の確認,就労状況・末子の年齢・児の人数による得点の比較)を行った。方法 インターネット調査会社に委託して調査を実施し,3か月~6歳の児を養育する母親310人を分析の対象とした(25~45歳,常勤職員155人,主婦155人)。認知的失敗尺度SIML(15項目,5件法),就労状況,母親の年齢,末子の年齢,児の人数,世帯収入,育児サービスの利用状況,1日の睡眠時間,疲労感,神経症傾向を調査項目として使用した。結果 SIMLは1因子から成る尺度であることが確認された。記憶愁訴,睡眠時間,疲労感,神経症傾向の各変数と認知的失敗得点の相関はそれぞれ,0.66,−0.17,0.32,0.22(すべて,P<0.01)であった。クロンバックのα係数は0.94であり十分な信頼性が確認された。認知的失敗を従属変数として3要因分散分析を行ったところ,末子の年齢(0~3歳:34.9±11.5点>4~6歳:32.6±10.5,偏η2=0.013),児の人数(1人:32.4±11.3<2人以上:34.9±10.9,偏η2=0.014)の主効果が有意であった。母親の年齢を共変量とする3要因共分散分析を行ったところ,末子の年齢の主効果が有意であった(偏η2=0.014)。結論 子育て期の女性を対象として,認知的失敗尺度SIML日本語版の計量心理学的特性(因子構造,妥当性,信頼性,得点分布)が確認された。
著者
石井 佳世子
出版者
一般社団法人日本小児看護学会
雑誌
日本小児看護学会誌 (ISSN:13449923)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.1-8, 2007-09-20
被引用文献数
1

小児がん発症後5年以上を経過し、社会生活を送っている青年後期の小児がん経験者をもつ母親20名を対象とし、母親の子どもへの関わりとその関わりの意味を明らかにするため、質的記述的研究を行った。その結果、母親は〔子どもへの基本的な思い〕、〔母親として責任のある子どもへの思い〕、〔豊かな人生を送って欲しい〕という3つの【母親としての願い】を持っていた。この願いは、【体験を無駄にしたくない】という病気体験の捉え方、【やっぱり病気を忘れられない】という病気そのものの捉え方、【将来のある子ども】という子どもの捉え方によって、常に揺れ動いていた。また母親は、【母親としての願い】を持ちながら、【子どもを守る】という関わりを行い、これはこの先も子どもを守り続けたい<終わりのない見守り>という意味を持つと考えられた。さらに母親は、子どもへの関わりを通して、【変わっていく自分】を感じ、子どもの病気を自らの体験として意味づけていた。