著者
中山 千尋 岩佐 一 森山 信彰 高橋 秀人 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.753-764, 2021-11-15 (Released:2021-12-04)
参考文献数
18

目的 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故から9年経った現在でも,「放射線の影響が子どもや孫など次の世代に遺伝するのではないか」という「次世代影響不安」が根強く残っている。マスメディア報道やインターネットによる情報等が,この不安に影響していると考え,その関連を明らかにして,今後の施策に繋げることを目的とした。方法 2016年8月に,20~79歳の福島県民2,000人を対象に,無記名自記式質問紙による郵送調査を実施した。福島県の会津地方,中通り地方,浜通り地方,避難地域から500人ずつ無作為抽出し,原発に近い沿岸部の浜通りと避難地域のデータを分析対象とした。目的変数は「次世代影響不安」で,その程度を4件法で尋ねた。説明変数は,放射線について信用する情報源と,利用するメディアを尋ねた。この他に属性,健康状態,放射線の知識等を尋ねた。2つの地域を合わせた全体データで,「次世代影響不安」と質問項目との間で単変量解析を行った。次に「次世代影響不安」を目的変数,単変量解析で有意差があった項目を説明変数として重回帰分析を行った。さらに,このモデルに項目「避難地域」と,「避難地域」と全説明変数との交互作用項を加えて,重回帰分析を行った。結果 有効回答は浜通り201人(40.2%),避難地域192人(38.4%)であった。重回帰分析の結果,次世代影響について,2つの地域全体では,政府省庁を信用する人,健康状態がよい人,遺伝的影響の質問に正答した人の不安が有意に低かった。また,がんの死亡確率の問題に正答した人は,不安が有意に高かった。さらに浜通りを基準にして交互作用項を投入したモデルでは,浜通り地方で,全国民放テレビを利用する人の不安が有意に高く,遺伝的影響の質問に正答した人の不安は有意に低かった。避難地域を基準にしてこのモデルを分析すると,避難地域は全体と同じ結果であった。結論 二つの地域で,情報源とメディアが次世代影響に有意に関連していた。報道者が自らセンセーショナリズムに走らないような意識が必要である。受け手は正しい情報を発信している情報源やメディアの選択が必要であり,メディアリテラシー教育の必要性が示唆された。また,健康状態の向上は,不安を下げる方策であることが示唆された。一方がんの死亡確率の知識は,伝え方に誤解を招かないような工夫を要することが示唆された。さらに,遺伝的影響の知識の普及は不安を下げる方策であることが示唆された。
著者
中山 千尋 岩佐 一 森山 信彰 高橋 秀人 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-140, (Released:2021-08-25)
参考文献数
18

目的 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故から9年経った現在でも,「放射線の影響が子どもや孫など次の世代に遺伝するのではないか」という「次世代影響不安」が根強く残っている。マスメディア報道やインターネットによる情報等が,この不安に影響していると考え,その関連を明らかにして,今後の施策に繋げることを目的とした。方法 2016年8月に,20~79歳の福島県民2,000人を対象に,無記名自記式質問紙による郵送調査を実施した。福島県の会津地方,中通り地方,浜通り地方,避難地域から500人ずつ無作為抽出し,原発に近い沿岸部の浜通りと避難地域のデータを分析対象とした。目的変数は「次世代影響不安」で,その程度を4件法で尋ねた。説明変数は,放射線について信用する情報源と,利用するメディアを尋ねた。この他に属性,健康状態,放射線の知識等を尋ねた。2つの地域を合わせた全体データで,「次世代影響不安」と質問項目との間で単変量解析を行った。次に「次世代影響不安」を目的変数,単変量解析で有意差があった項目を説明変数として重回帰分析を行った。さらに,このモデルに項目「避難地域」と,「避難地域」と全説明変数との交互作用項を加えて,重回帰分析を行った。結果 有効回答は浜通り201人(40.2%),避難地域192人(38.4%)であった。重回帰分析の結果,次世代影響について,2つの地域全体では,政府省庁を信用する人,健康状態がよい人,遺伝的影響の質問に正答した人の不安が有意に低かった。また,がんの死亡確率の問題に正答した人は,不安が有意に高かった。さらに浜通りを基準にして交互作用項を投入したモデルでは,浜通り地方で,全国民放テレビを利用する人の不安が有意に高く,遺伝的影響の質問に正答した人の不安は有意に低かった。避難地域を基準にしてこのモデルを分析すると,避難地域は全体と同じ結果であった。結論 二つの地域で,情報源とメディアが次世代影響に有意に関連していた。報道者が自らセンセーショナリズムに走らないような意識が必要である。受け手は正しい情報を発信している情報源やメディアの選択が必要であり,メディアリテラシー教育の必要性が示唆された。また,健康状態の向上は,不安を下げる方策であることが示唆された。一方がんの死亡確率の知識は,伝え方に誤解を招かないような工夫を要することが示唆された。さらに,遺伝的影響の知識の普及は不安を下げる方策であることが示唆された。
著者
安村 誠司 中山 健夫 佐藤 理 杉田 稔 中山 千尋
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

原発事故以後、福島県民が抱く放射線健康不安には、報道や情報が関連していると考え、県民2000人に対し、健康不安の程度、信用する情報源、利用するメディアについて質問紙調査を行った。健康不安の程度を目的変数、信用する情報源と利用するメディアを説明変数とした重回帰分析の結果、NGO等を信用する群、ネット・サイトを利用する群の不安が有意に高く、政府省庁、自治体を信用する群、地元民放テレビを利用する群は、不安が有意に低かった。情報源やメディアの違いによる、不安の程度の差が明らかになった。また、ヘルスリテラシー得点上位群の不安が有意に低く、放射線不安を減らす上での、ヘルスリテラシーの有効性が示唆された。
著者
堀越 直子 大平 哲也 安村 誠司 矢部 博興 前田 正治 福島県県民健康調査「こころの健康度・生活習慣に関する調査」グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.70-77, 2017 (Released:2017-03-16)
参考文献数
21

目的 福島県立医科大学では,福島県からの委託を受け,東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射線の健康影響を踏まえ,将来にわたる県民の健康管理を目的とした「県民健康調査」を毎年実施している。そのうち,平成23年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の生活習慣支援対象者(高血圧・糖尿病)に対し,看護師・保健師等が実施した電話支援の効果,特に次年度の調査票への回答および医療機関受診の勧奨効果を明らかにすることを目的とした。方法 平成23年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の生活習慣支援対象者(高血圧・糖尿病)1,620人をベースラインデータとし,平成24年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」の結果との関連を縦断的に検討した。結果 平成23年度の生活習慣支援対象者で,電話支援を実施した者(以下,電話支援者)は1,078人,電話番号の未記載や留守等で電話支援を実施しなかった者(以下,電話未支援者)は542人であった。単変量解析の結果,電話支援実施の有無で,居住場所(P=0.001),教育歴(P<0.001),就業状況(P<0.001)に違いがみられた。 平成24年度調査票への回答者数は,電話支援者が616人(57.1%),電話未支援者が248人(45.8%)であり,電話未支援者に比べ電話支援者の平成24年度調査票回答率は高く,統計的に有意であった(P<0.001)。また,平成24年度調査票への回答の中で,医療機関に受診したと記載のあった者は,電話支援者が184人(29.9%),電話未支援者が68人(27.4%)であり,電話未支援者に比べ電話支援者の受診者の割合は高かったが,統計的に有意差はなかった。 多変量解析の結果,平成24年度調査票への回答には,電話支援を受けた者であることが有意に関連した(P=0.016)。結論 電話支援者は電話未支援者に比べ,次年度の調査票回答率が有意に高く,電話支援の取り組みは,調査票回答率の向上に有効であると考えられる。
著者
永井 雅人 大平 哲也 安村 誠司 高橋 秀人 結城 美智子 中野 裕紀 章 文 矢部 博興 大津留 前田 正治 高瀬 佳苗 福島県「県民健康調査」グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.3-10, 2016 (Released:2016-01-29)
参考文献数
24
被引用文献数
2

目的 東日本大震災による避難者において,生活習慣病が増加していることが報告されている。避難による生活環境の変化に伴い,身体活動量が減少したことが原因の一つとして考えられる。しかしながら,これまで避難状況と運動習慣との関連は検討されていない。そこで,福島県民を対象とした福島県「県民健康調査」より,避難状況と運動習慣の関連を検討した。方法 震災時に原発事故によって避難区域に指定された13市町村に居住していた,平成 7 年 4 月 1 日以前生まれの37,843人を解析対象者とした。避難状況は震災時の居住地(13市町村),避難先(県内避難・県外避難),現在の住居形態(避難所または仮設住宅,借家アパート,親戚宅または持ち家)とした。また,本研究では自記式質問票にて運動を「ほとんど毎日している」または「週に 2~4 回している」と回答した者を「運動習慣あり」と定義した。統計解析は,運動習慣がある者の割合を性・要因別(震災時の居住地,避難先,住居形態)に集計した。また,standard analysis of covariance methods を用いて,年齢,および震災時の居住地,避難先,住居形態を調整した割合も算出した。結果 運動習慣がある者の調整割合は,震災時の居住地別に男性:27.9~46.5%,女性:27.0~43.7%,と男女それぞれ18.6%ポイント,16.7%ポイントの差が観察された。避難先別では,男性で県外(37.7%),女性で県内(32.1%)においてより高かったが,その差は小さく男性:2.2%ポイント,女性:1.8%ポイントであった。住居形態別では,男女ともに借家アパート居住者が最も低く,避難所または仮設住宅居住者が最も高かった(男性:38.9%,女性:36.7%)。避難所または仮設住宅居住者に比し,借家アパート居住者で男性:5.4%ポイント,女性:7.1%ポイント,親戚宅または持ち家居住者で男性:2.0%ポイント,女性:4.2%ポイント,それぞれ低かった。結論 避難区域に指定された13市町村に居住していた者の運動習慣がある者の割合は,震災時の居住地および住居形態によって異なっていた一方,県内避難者と県外避難者との間では同程度であった。とくに借家アパートに居住している者における割合が低く,孤立した人々を対象とした新たな生活習慣病予防対策を立案・実行することが必要である。
著者
岩佐 一 中山 千尋 森山 信彰 大類 真嗣 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.158-168, 2022-02-15 (Released:2022-03-02)
参考文献数
46

目的 「心的外傷後成長(posttraumatic growth)」(以下,PTG)は,「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがきや奮闘の結果生じるポジティブな心理的変容」であり,心的外傷の体験者に対する心理的支援に活用されている。本研究は,東日本大震災を経験した福島県住民におけるPTGの自由記述を分類し,その傾向を調べること,基本属性とPTG自由記述の関連,「放射線健康影響不安からの回復」とPTG自由記述の関連について検討することを目的とした。方法 2016年8月に,20~79歳の福島県住民2,000人に自記式郵送調査を行った。PTGの有無について質問した後,PTGの自由記述を求めた。基本属性として,年齢,性別,教育歴の回答を求めた。震災直後と調査時点における,放射線健康影響に対する不安を問い,対象者を「不安なし」群,「不安から回復」群,「不安継続」群に分割した。Posttraumatic Growth Inventory(Tedeschi & Calhoun, 1996)における5つの領域(「他者との関係」「新たな可能性」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」)に基づき,さらに西野ら(2013)を参考として,「防災意識の高揚」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」を加えた8つのカテゴリにPTG自由記述を分類した。結果 916人から回答を得て,欠損の無い786人を分析対象とした。女性と64歳以下の者では,「他者との関係」「人生への感謝」を回答した者が多かった。教育歴が高い者では,「他者との関係」「原子力問題への再認識」「権威からの情報に対する批判的吟味」「人間としての強さ」「精神性的変容」「人生への感謝」を回答した者が多かった。「不安から回復」群において,「原子力問題への再認識」を回答した者が多かった。結論 女性や若年者では,家族・友人関係,地域との結びつきを実感する等の報告や,日常生活に対する感謝の念が生じる等の報告がなされやすかった。教育歴が高い者では,国や電力会社,全国紙等が発する情報を鵜呑みにせず批判的に吟味するようになった等の報告や,震災後自身の精神的な強さや成長を認識できた等の報告がなされやすかった。放射線健康影響不安から回復した者では,原発やエネルギー問題に対して新たな認識が生じた等の報告がなされやすかった。
著者
大類 真嗣 黒田 佑次郎 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.8, pp.407-416, 2019-08-15 (Released:2019-09-21)
参考文献数
23
被引用文献数
1

目的 2011年の福島第一原子力発電所事故による住民の精神的健康度の指標として,避難区域の自殺死亡率の動向を継続的に把握しており,2015年時点で避難指示が解除された市町村で上昇していることを確認した。そのため,1. 2017年4月までに避難指示が解除された区域の自殺死亡率のモニタリングを行い,2. 避難指示解除後に自殺死亡率の上昇の懸念のある福島県飯舘村を対象に,住民の自殺予防,精神的健康の向上を目的とした対策を展開した。方法 1. 自殺死亡率のモニタリング:人口動態調査を基に,2017年4月までに大部分の地域で避難指示が解除された8市町村を対象に,自殺死亡率の推移を検討した。2. 福島県飯舘村を対象とした避難指示解除後の自殺・メンタルヘルス対策:以下の3つの内容で対策を展開した。1)精神的健康度や自殺念慮に関するスクリーニングおよび個別支援,2)住民リーダーや支援者へのゲートキーパー養成講座を通じた地域づくり,3)被災自治体の職員への技術的支援(スクリーニングおよびハイリスク者支援,地域自殺対策計画策定に向けた住民の健康課題の抽出や事業整理および一般職員向け研修)。活動内容 1. 避難指示解除区域の男性の自殺死亡率は低い状況から一転し,解除開始後の2015年から3年間全国よりも高い状況が続いた。女性では2013年以降全国水準よりも高く,とくに避難指示解除が進んだ2017年は全国よりも有意に高い状況であった。2. およそ4,800人の住民を対象に行ったスクリーニングでは,精神的健康度,ソーシャルサポート,1年以内の自殺念慮などを総合的に判断してハイリスク者を選別し,個別支援を行った。地域自殺対策計画策定に向けた住民の健康課題の抽出では「子ども家族との再同居で気を遣う」,「かつての仲間が村にはおらず孤独」など,仮設住宅からの転居の影響による,避難指示解除後に特徴的な課題が浮き彫りになった。その状況を踏まえ,様々な理由で精神的健康が損なわれている住民と接する機会の多い自治体一般職員向け自殺研修を開催した。結論 避難指示解除区域の自殺死亡率のモニタリングや,コミュニティーの再分離といった避難指示解除後に特徴的な背景を踏まえ,地域づくりを意識したゲートキーパー養成,被災自治体の一般職員に対する研修を行った。解除後の自殺死亡率の上昇を踏まえ,当該地域での対策をより一層強化していく必要がある。
著者
川井 巧 後藤 あや 渡辺 英子 長澤 真知子 金成 由美子 安村 誠司
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.209-214, 2011 (Released:2015-05-30)
参考文献数
12

【目的】定期予防接種の接種未完了率とその関連要因を明らかにする. 【方法】2008年4月から2009年3月に福島市の1歳6か月児健康診査を受診した児を対象とした調査で作成したデータベースの二次分析を行った. BCGワクチン, 三種混合ワクチン, MRワクチン, ポリオワクチンの4種の接種について, 大幅な情報欠損, 早産・低出生体重児, 入院・予防接種歴不明の児を除外した1622人を対象とした. 【結果】4種全ての定期接種完了率は79.3%であった. 多変量解析では, 同居している子供が1人以上, 保育所通所あり, 両親の喫煙あり, 4か月児健康診査時点での母乳栄養なしの4項目で定期接種完了児が有意に少なかった. また感染症入院のリスク要因保持数が多いと定期接種完了率は有意に低下していた. 【結論】保育所通所, 第二子以降の場合には, より積極的に予防接種についての啓発が必要である. さらに, 喫煙や母乳育児についての生活習慣も含め包括的に子育て支援を行うことが重要である.
著者
佐野 碧 岩佐 一 中山 千尋 森山 信彰 勝山 邦子 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.380-389, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
30

目的 近年,メディア(インターネット,ゲーム,ソーシャルネットワークサービス等)の長時間利用や利用年齢の若年化が問題視されている。子どものメディアの長時間利用は,身体的・精神的・社会的側面から成長発達に望ましくない影響を与える可能性が指摘されている。とくに,中学生・高校生はこれまで獲得した基本的な生活習慣を自己管理していく重要な時期であり,日常生活で利用するメディアと上手に付き合っていく能力を培う必要がある。そこで,本研究では,中学生・高校生におけるメディア利用時間と生活習慣の関連について検討した。方法 福島市内の全中学校・高校の生徒から1,633人を抽出した。市内の各校学校長に配布を依頼して自記式質問紙調査を実施し,1,589人より回答を得た。性別・学年が未記入だった者30人を分析から除外し1,559人を分析の対象とした。主観的健康感,生活習慣,飲酒・喫煙経験に関する項目を従属変数,メディア利用時間を独立変数とし,性・学年を調整し,二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 中学生では,3時間以上のメディア利用は,「朝食欠食」,「運動習慣なし」,「就寝起床時間(不規則)」,「休養不足」,「ストレスあり」と有意な関連を示した。高校生では,3時間以上のメディア利用は,「健康感(不良)」,「3食食事を食べていない」,「朝食欠食」,「食品多様性(低い)」,「肥満」,「運動習慣なし」,「就寝起床時間(不規則)」,「就寝時間遅い」,「起床時間遅い」,「飲酒経験あり」,「喫煙経験あり」と有意な関連を示した。結論 中学生,高校生ともに,3時間以上の長時間のメディア利用は,睡眠,食事,身体活動の生活習慣全般および飲酒,喫煙との関連を認めた。さらに,長時間のメディア利用は,主観的健康感との関連も示された。メディアの過度な利用が生活習慣や心身の健康に関与していることを,中高生自身が理解し適切に利活用できるよう教育体制を構築することが重要である。
著者
岩佐 一 石井 佳世子 吉田 祐子 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.42-50, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
36

目的 子育ては心身ともに負担の大きい活動である。子育て期の女性は,育児・家事の過重負担や児からの頻繁な要求により常態的に注意力が制限されやすいこと,認知機能が低下しやすいことから,様々な失敗(「認知的失敗」)を経験しやすいことが考えられる。本研究では,3か月~6歳の児を養育している女性を対象として調査を行い,①認知的失敗尺度であるShort Inventory of Minor Lapses(SIML)の日本語版を開発し,②認知的失敗尺度の計量心理学的特性(因子分析,妥当性の検証,信頼性の検証,分布形状の確認,就労状況・末子の年齢・児の人数による得点の比較)を行った。方法 インターネット調査会社に委託して調査を実施し,3か月~6歳の児を養育する母親310人を分析の対象とした(25~45歳,常勤職員155人,主婦155人)。認知的失敗尺度SIML(15項目,5件法),就労状況,母親の年齢,末子の年齢,児の人数,世帯収入,育児サービスの利用状況,1日の睡眠時間,疲労感,神経症傾向を調査項目として使用した。結果 SIMLは1因子から成る尺度であることが確認された。記憶愁訴,睡眠時間,疲労感,神経症傾向の各変数と認知的失敗得点の相関はそれぞれ,0.66,−0.17,0.32,0.22(すべて,P<0.01)であった。クロンバックのα係数は0.94であり十分な信頼性が確認された。認知的失敗を従属変数として3要因分散分析を行ったところ,末子の年齢(0~3歳:34.9±11.5点>4~6歳:32.6±10.5,偏η2=0.013),児の人数(1人:32.4±11.3<2人以上:34.9±10.9,偏η2=0.014)の主効果が有意であった。母親の年齢を共変量とする3要因共分散分析を行ったところ,末子の年齢の主効果が有意であった(偏η2=0.014)。結論 子育て期の女性を対象として,認知的失敗尺度SIML日本語版の計量心理学的特性(因子構造,妥当性,信頼性,得点分布)が確認された。
著者
山崎 幸子 藺牟田 洋美 橋本 美芽 野村 忍 安村 誠司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.439-447, 2010 (Released:2014-06-12)
参考文献数
28
被引用文献数
6

目的 近年,地域で介護予防を進めていくための強化分野の 1 つとして,「閉じこもり予防•支援」が展開されており,その効果を評価する心理的側面を含めた指標が求められている。行動変容の視点によれば,閉じこもりの改善には,外出に特化した自己効力感が潜在的に影響していると想定されるが,評価尺度は未だ存在しない。そこで本研究では,地域高齢者の外出に対する自己効力感を測定する尺度(self-efficacy scale on going out among community-dwelling elderly:以下,SEGE と略す)を開発し,その信頼性と妥当性を検証することを目的とした。方法 都内 A 区在住の地域高齢者18人から項目収集を行い,得られた項目をもとに,某県 O 市の地域高齢者258人に対する予備調査によって,13項目から成る尺度原案を作成した。本調査は,都内 A 区在住の地域高齢者8,000人を無作為抽出し,郵送法による調査を実施した。調査内容は,尺度原案,年齢,性別などの基本属性および妥当性を検討するための評価尺度であった。結果 分析対象者は2,627人(男性1,145人,女性1,482人),平均年齢73.8±6.6歳であった。週 1 回以上,外出していたのは全体の86.1%であった。予備調査で作成した尺度原案について主成分分析を行った結果,1 因子構造が確認された。ステップワイズ因子分析による項目精選を行った結果,6 項目から成る尺度が開発された。これら 6 項目の内的整合性は,α=.96であり,高い信頼性が確認された。外出頻度が低いほど,SEGE 得点も低かった。SEGE と,動作に対する自己効力感,健康度自己評価および健康関連 QOL は有意な相関関係にあり,基準関連妥当性および構成概念妥当性が確認された。さらに,高い相関関係にあった SEGE と動作に対する自己効力感における確証的因子分析を行ったところ,両尺度は相関が高いものの,別々の概念を測定していることを確認した。結論 本研究の結果,高い信頼性および妥当性が確認された 6 項目 1 因子から成る SEGE が開発された。本尺度により,「閉じこもり予防•支援」の心理的側面を測定する新たな効果指標を提案できたと考える。今後,地域で広く活用していくことが求められる。
著者
藺牟田 洋美 安村 誠司 阿彦 忠之 深尾 彰
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.483-496, 2002 (Released:2015-12-07)
参考文献数
51
被引用文献数
3

目的 寝たきり予防を積極的に推進するため,在宅高齢者における自立度の 1 年後の変化と自立(ランク J)と準寝たきり(ランク A)の高齢者の自立度の改善・維持と悪化の予測因子の相違を初回調査の身体・心理・社会的側面から総合的に検討した。方法 1997年に山形県内の65歳以上の高齢者に個別面接調査を実施した。1998年,同一の対象者に追跡調査を実施した。自立度の基準とした「障害老人のための自立度判定基準」(以下,判定基準)の自己評価と他者評価が一致した165人(ランク J:自立112人,ランク A:準寝たきり53人)を分析対象とした。調査項目は判定基準のほか,身体・心理・社会的項目20項目であった。なお,予測因子の分析では自立,準寝たきりともに改善・維持,悪化の 2 群に分類して検討した。成績 1. 1997年の自立度別にみた 1 年後の転帰:死亡は自立が0.9%,準寝たきりが7.6%であった。女性,または75歳以上である場合,自立度が低下するほど,死亡者は多かった。 2. 自立度別にみた 1 年後の自立度の変化:自立高齢者の23.1%で自立度が悪化した。準寝たきりで自立度が改善した者は35.4%,悪化した者は14.6%であった。性・年齢階級による自立度変化への影響は認められなかった。 3. 自立高齢者の自立度変化の予測因子:身体的項目では,過去 1 年間の入院あり,心理的項目では自己効力感が低いこと,主観的健康感が悪いこと,社会的項目では老研式活動能力指標得点が低いことが自立度低下と関連していた。 4. 準寝たきりの自立度変化の予測因子:身体的項目では排尿が要介助であること,心理的項目では自己効力感の得点が低いことが自立度の悪化に関連していた。結論 在宅高齢者では,自立度の悪化にともない,女性,または後期高齢者の場合,1 年後死亡になりやすいことが示された。また,1 年後の自立度変化では,準寝たきりで自立に改善した者が,寝たきりに悪化した者よりも多かった。在宅高齢者の 1 年後の自立度は可逆的であることが示された。 自立,準寝たきりともに自立度の悪化と心理的項目の自己効力感が結びついていることが明らかとなった。簡単な掃除など身の回りの行動に対して自信が持てないことを意味する自己効力感が低いことが,自立・準寝たきり高齢者の 1 年後の自立度を予測する上で極めて有効であることが明らかになった。
著者
山崎 幸子 藺牟田 洋美 橋本 美芽 繁田 雅弘 芳賀 博 安村 誠司
出版者
日本保健科学学会
雑誌
日本保健科学学会誌 (ISSN:18800211)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.20-27, 2008-06-25

本研究では,都市部在住高齢者における閉じこもりと家族関係,社会関係の特徴を検討し,閉じこもり予防・支援のための基礎資料を得ることを目的とした。東京都A区在住の65歳以上の住民に対する郵送調査の有効回答者3,592名から,要介護者等を除き,訪問許可のあった閉じこもり95名,性別と年齢,移動能力をマッチングさせた非閉じこもり95名を対象とした。調査完了者は閉じこもり69名,非閉じこもり73名であった。分析の結果,閉じこもりは,1.同居家族との会話が少なく,同居している他世代との家計が一緒である傾向が示され,2.同居家族がいる場合には家庭内における役割が少なく,3.居宅から30分以上の距離圈における交流人数や,情報的サポート,外出援助に非閉じこもりと差異があることが確認された。以上から、閉じこもりの同居家族に対する情緒的依存傾向や,周囲との関係性が非閉じこもりと異なっていることが推察された。
著者
芳賀 博 柴田 博 松崎 俊久 安村 誠司
出版者
The Japanese Society of Health and Human Ecology
雑誌
民族衛生 (ISSN:03689395)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.217-233, 1988
被引用文献数
41 8

本研究は,初回調査時に比較的健常であった地域在宅老人の10年間の追跡的調査に基づいている.研究の目的は,加齢に伴うADLの変化を明らかにし,さらには,ADLの維持に関わる要因を初回調査時の身体,心理,社会的側面から検索することである. 対象は,昭和51年の初回調査に応じた69~71歳の東京都小金井市在住の男女422名である.このうち,10年後の追跡調査に応じた者は,250名であり,死亡者は102名であった. 得られた主な結果は次のとおりである. 1.10年間に死亡した者は,継続調査群に比べて初回調査時のADL総合点は低い傾向にあった. 2.10年後のADLは,歩行,食事,排泄,入浴,着脱衣のいずれにおいても低下を示し,とくに歩行の低下が最も大きかった. 3.10年後に5項目全てが「半介助」あるいは「介助」に属するいわゆる"寝たきり老人"は,男の3.7%,女の2.1%のみであった.このうち,脳卒中及び骨・関節疾患を有する者を除くと"寝たきり老人"はさらに少なかった(男2.3%,女0.8%). 4.ADLの低下は,女より男に大きい傾向であったが,その差は有意ではなかった. 5.10年後のいわゆる「老化」にともなうADL低下に有意に関連する身体的要因は,高血圧の既往「あり」(男),心電図所見「異常」(男),「肥満」(女)であった. 6.心理的要因では,ベントソ正確数が「低い」(男),身体についての悩み「あり」(女)で有意なADLの低下を認めた. 7.社会的要因では,社会活動性が「低い」ほど有意なADLの低下を示した(男女). 以上の日常生活動作能力の変化に関する予知因子の検討の結果,男女とも社会活動性が10年後のADLの転帰にもっとも関係していた.このことから,社会活動性を維持し,あるいは高めることが日常生活動作能力の保持に役立ち,余命の延長にもつながることが推測された.