著者
木賀 洋 石井 義則 松田 芳和 高橋 賢 石井 亮
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C1022, 2004

【はじめに】膝関節周囲の腱断裂は大腿四頭筋実部での断裂が主であり、膝蓋腱断裂は極めて少ない。また、その殆どが透析等の内科的な基礎疾患をベースとしたものである。今回、特に内科的な合併症がなく自然発症的に損傷し、整形外科的手術を施行後の治療を経験したので報告する。<BR>【症例】47歳男性、会社員(フィットネスインストラクター)息子とバスケットボール中に、ジャンプをしたところ膝関節に疼痛、腫脹出現。歩行困難となり救急車にて当クリニック受診。<BR>【手術、後療法】レントゲン、MRI、エコーにて膝蓋骨上方偏位、膝蓋腱実部に断裂が確認され、受傷後一日に観血的治療を施行。再建術については膝蓋骨にアンカースーチャーを使用し腱縫合を行い、半膜様筋腱を採取し膝蓋骨及び腱実部に通しfigure-eightで断裂部を補強した。荷重は術直後より全荷重が許可され、固定期間については術後3週間をギプス固定、その後3週間をKnee Braceで行った。また、関節可動域運動については術後3週より膝関節屈曲30度程度までの自動運動から開始し、術後6週より他動的に行った。荷重位での筋力トレーニングは術後3ヶ月より許可された。<BR>【理学療法評価】術後6週では安静時痛、荷重時痛はなかったが、荷重に対する恐怖心の訴えがあった。視診、触診にて膝蓋骨周囲の腫脹と膝蓋骨低可動性が見られた。また、大腿四頭筋の収縮時痛はなく、収縮不全が認められた。自動運動での膝関節可動域は膝蓋骨上方に疼痛を訴え、0~50度で制限されていた。他動運動は、自動運動とほぼ同様な角度で制限されており、屈曲の最終域感は大腿四頭筋の筋スパズムによるものであった。以上が可動域制限の原因として考え、理学療法を施行した。<BR>【理学療法経過】術後3週時には大腿四頭筋の萎縮が認められ、筋再教育を施行した。術後6週では膝関節屈曲50度、伸展0度であった。また、extension lagが認められ、歩行時に膝関節可動域制限による跛行を呈していた。術後12週で膝関節屈曲130度、伸展0度と改善したが、腫脹、膝蓋骨低可動性、筋スパズムは軽度残存した。extension lag、跛行は消失し、膝関節伸展MMTは4であったため、荷重位における筋力トレーニング(スクワット)に移行したところ膝蓋骨外側上方に疼痛を訴えた。これについて内側広筋の機能不全による膝蓋骨の軌道変化によるものと考え、患者に内側広筋を意識することを指示すると疼みなく運動が可能となった。術後20週では正座、応用動作、軽いランニング等が可能となるまで回復した。<BR>【考察】現在、生活習慣病予防対策として中高年へのスポーツが推奨されている。中高年のスポーツ機会の増加に伴い、これまで稀とされている本疾患の増加が予想される。本疾患は、頻度の高いACL断裂に加え、今後、我々理学療法士も念頭におくべき一つの疾患と考える。