著者
石元 広志
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

性行動においてメスは、たとえ同種のオスであっても容易に交尾を受入れない。このメスの交尾意思決定を制御する脳神経機構は未解明である。ショウジョウバエのメスは、多くの動物と同様に、たとえ同種であっても求愛をすぐには受入れない。この交尾前の拒否行動は、交尾の決定権がメスにあることを示し、交尾相手を選択する行動である。このように、メスが継続した求愛を受けて、交尾の拒否から受容へと行動を転換する一連のプロセスを制御する脳神経機構を明らかにする目的で、本研究は、このメスの交尾前拒否行動を制御する責任神経細胞の特定を進めた。その結果、昆虫脳に共通して存在する中心複合体楕円体内の2種類の神経細胞群(各々アセチルコリン作動性神経細胞群とGABA作動性神経細胞群)で構成されるType-I Incoherent feedforward loopを形成する神経回路が、メスの性行動を制御することを突き止めた。また、脳に存在する2対のドーパミン神経細胞が、この回路を駆動すること、特定のドーパミン受容体が回路を構成する神経細胞の活動を制御することを明らかにしている。昨年度は、この回路の動作に一酸化窒素(NO)を介する逆行性シナプス伝達制御が関与すること見出し、当該神経回路の動作調節機構の一端を明らかにした。本年度は、分子解剖学的手法を用いて、当該神経回路と上流の神経群の接続を詳細解析し、フェロモン等のオスの情報を集約する脳の領域との解剖学な接続関係を明らかにした。さらに楕円体は、運動機能にも重要な役割を担う。そこで、これら神経機能を阻害することによる歩行速度の低下と交尾潜時の相関を検討した。以上の成果を集約して、本年度論文として出版することができた。また、各種メディアを通じて研究成果を社会一般に発信した。