著者
石原 哲也 平田 幸一 辰元 宗人 山崎 薫 佐藤 俊彦
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.180-186, 1997-06-25 (Released:2009-09-16)
参考文献数
30

一過性全健忘 (TGA) の発症機序については, 未だに統一した見解は得られていない.われわれは, 従来の臨床的およびMRI, SPECTによる画像診断的検討に加え, proton MRspectroscopy (1H-MRS) を用い, その成因に関する検討をおこなった.TGAの急性期におけるSPECTでは, 側頭葉内側および基底核を中心とした脳血流の低下が示唆された.一方, 側頭葉内側および基底核部における急性期の1H-MRSでは, 虚血性変化の急性期にみられるようなコリン, クレアチンの低下や乳酸の増加は認めず, 脳細胞の代謝異常または脳機能の低下を示すとされるN-アセチルアスパラギン酸 (NAA) の相対的な低下のみがみられた.この結果から, TGAの発症には必ずしも一過性脳虚血発作と同様なatherothrombo-embolicな機序による脳血流低下のみが関与するものではないことが示唆された.