著者
岡田 佳子 石原 照也
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,光照射で屈折率(吸収)変化する有機非線形媒質バクテリオロドプシン(bR)を利用して,光制御型光スイッチ素子を実現することである.光スイッチの小型化,低動作パワー,高速動作などの点からチャネル型導波路が有利と考え,当初方向性結合器型を提案したが,グレーティング結合器型スイッチ素子の方が将来性があると判断して素子構成を変更した.提案したグレーティング結合器は,電子ビーム露光装置およびドライエッチング装置を用いて石英基板上に作製したスラブ型フォトニック結晶(露光面積1.5mm^2,周期600〜720nm)上に,各種bR混合ポリマー膜をスピンコートしたものである.最適導波路膜厚を求めるためPVAのみをコーティングして透過スペクトルを測定した.膜厚を130〜200nmに制御し,法線方向から白色光を入射させて(-40〜+40度)ポリクロメーターで分光したところ,導波モードあるいはBraggモードの励振による透過強度の損失に対応する鋭いディップが観察され,膜厚180mm付近で最大Q値を示した.さらにPVA溶液にbRを混合してスピンコートした膜,bRを塗布して乾燥させた上にポリスチレンをオーバーコートした膜についてそれぞれ光学測定した結果,複数の新しいディップが出現し,そのQ値は最大1000程度を示した.各ディップエネルギーを波数k_x=ksinθの関数としてプロットした分散関係から,有効屈折率を計算したところ,1.7〜2eV付近ではn^*=1.47,2.4〜2.7eV付近ではn^*=.53となり,これらの値は石英の屈折率やPVAの屈折率に非常に近いことがわかった.これらのサンプルにArイオンレーザー(515nm)を照射してbRの屈折率を変化させ,それに従って導波路に結合するモードすなわちディップの波長を変化させたところ,シフト量は1〜2nmで,He-Neレーザー633nm(半値全幅1.4nm),半導体レーザー682nm(半値全幅2.0nm)のスイッチングは十分可能であることを確認した.このように,入射角度によって複数のディップを同時に選択でき,その波長シフトを光で容易に制御できることから,本研究で提案したフォトニック結晶スラブは,多波長光スイッチング素子として利用できることを示した.