著者
石崎 博志
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本年度の研究は、朝鮮語・漢語・ヨーロッパ言語など外国語資料による琉球語研究がこれまで如何なる形で行われてきたのかを振り返り、それらを批判的に検討を加えることによって外国資料が示す琉球語の音韻体系が如何なるものであったかを明らかにすることを目標とした。現在、その存在が知られる琉球語を記述した外国語資料には、朝鮮語(ハングル)による資料、漢語(漢字)による資料、ヨーロッパ言語(ローマ字)による資料の三つのタイプがあるが、これら一次資料とこれらを使った琉球語研究に関する先行研究を広範に網羅し、「外国語による琉球語研究資料」および「琉球における官話」文献目録」(『日本東洋文化論集』第7号2001)と題してその成果をまとめた。ここでは、これまでの琉球語研究史を扱った文献目録から除外されてきた外国語資料による琉球語資料とその研究論文を新出資料も交えて盛り込んだ目録である。「漢語資料による琉球語と官話研究について」(『日本東洋文化論集』第7号2001)は、外国語、ことに漢語による琉球語研究の歴史及び琉球で学ばれた漢語の研究史を振り返るとともに、これまでの研究の特徴や問題点を指摘し、そこに新たな知見を加えたものである。中国資料に関しては、「琉球館譯語」と陳侃『使琉球録』所載の「夷語」成立時期の先後関係について、「琉球館譯語」が最も早期の琉球語資料であるとの説を批判的に検討し、さらに「日本館譯語」と陳侃「夷語」との関係について論じた。そして、琉球官話と呼ばれる一群の琉球における漢語資料についてはこれまでの「官話」の基礎方言に関する議論を展開しながら、中国における官話研究の状況と併せて論じた。
著者
石崎 博志
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.15-29, 2011-10

本稿は『琉球入學見聞録』「土音」を分析し、ここに表れた琉球語のカ行ア段音とハ行ア段音の音価、カ行イ段音の口蓋化について考察した。その結果、琉球語の発音を示す音訳漢字の使用傾向から、語によってはカ行ア段音が喉音であったこと、ハ行ア段音は一部の語彙を除いて/p-/音を失い、[hua]或いは[Φa]音であり、一部のカとハは[ha]と[hua]([Φa])という違いで音韻的区別が保たれていると結論づけた。またカ行イ段音は、音韻的にはタ行イ段音と未合流だったものの、ガ行イ段音はカ行イ段よりも先んじて口蓋化が発生していた可能性を指摘した。また、音訳漢字の使用状況の混乱などから、琉球語を記した音訳漢字の基礎方言に琉球からの留学生が学んだと思しき南京官話が反映している可能性を論じた。
著者
石崎 博志
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度はポーランドのクラクフ、フランスのパリにて中国の字書の欧州の所蔵状況などを調査し、京都、東京にて関連する漢語資料の調査を行った。そして、来華宣教師および在欧の中国学者がどのような中国の字書を参照していたのか、また中国の字書が欧人の編纂した辞書にどの程度反映されているのかを考察し、口頭発表を行ったのち、論文を発表した。この研究で扱った辞書は『西儒耳目資』、"海篇類"の字書、『字彙』、『正字通』、『諧聲品字箋』、『五方元音』で、以下の結果を得た。"海篇類"の字書については欧州各地に数多くの所蔵がみられ、宣教師やヨーロッパ人学者もそれらの書名を引用するものの、具体的にそれらをベースに編纂された辞書はみあたらない。『字彙』『正字通』も欧州各国に伝わっているが、殆どの場合字彙の筆画検字法の導入に止まり、字書本体を使用した事例は挫折に終わっている。『品字箋』については、Antonio Diazが1704年にVocabulario Hai xing phin tsu tsienを著すが、その序文に『品字箋』の韻分類を示すも、本体は宣教師による辞書を引き写したものとなっている。『五方元音』とラテン語による"Vocabularium Sinico-Latinum juxta. Ou Fang Iuen In."については、発音体系に若干の齟齬があるが、辞書本体の語釈部分については『五方元音』の反映はみられない。