著者
小林 武夫 熊田 政信 石毛 美代子 大森 蕗恵 望月 絢子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.31-34, 2014 (Released:2014-02-20)
参考文献数
10
被引用文献数
1

歌唱を職業とする者に,歌唱時においてのみ見られる痙攣性発声障害を「歌手の喉頭ジストニア(singer’s laryngeal dystonia)」と名づけた.痙攣性発声障害の一亜形である.通常の会話は問題がない.本症の発症前に過剰な発声訓練を行っていない.4例は第1例(女性31歳)ソプラノ,ポピュラー,第2例(女性28歳)ロック,第3例(男性40歳)バリトン,第4例(男性46歳)バリトンで,第4例のみが外転型痙攣性発声障害で,他の3例は内転型である.内転型は歌唱時に声がつまり,高音の発声障害,声域の短縮,ビブラートの生成が困難となる.外転型では,無声子音に続く母音発声が無声化する.治療は,内転型はボツリヌストキシンの少量頻回の声帯内注射が有効である.外転型では,後筋にボツリヌストキシンを注射する.
著者
石毛 美代子 新美 成二 森 浩一
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.347-354, 1996-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
25
被引用文献数
4 3

声帯振動の状態を調べる方法の一つにElectroglottography (以下EGG) がある.EGGは非侵襲的で, 操作が容易, かつ装置が高価でないなど, 音声の研究のみならず臨床においてもすぐれた有用な特徴を持っている.欧米では音声障害患者のルーチンの検査として用いることも少なくない.しかしわが国においては, EGGを使用している施設はむしろ限られており, 声帯振動の一般的な評価方法として普及しているとはいい難い.そこで, あらためてEGGの原理や必要最小限の装置としてどんなものがあれば実際に使用することができるか, 波形から声帯振動の何がわかるか, さらにEGGの模式波形と実際の波形はどのように異なるか, などについてこれまでの研究結果を概説し, EGGが声帯振動の評価として, また音声訓練のバイオフィードバックとして, 簡便でかつ有効な方法であることを述べた.
著者
小林 武夫 石毛 美代子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.158-161, 2012 (Released:2012-06-11)
参考文献数
9
被引用文献数
1

17歳のとき月経痛がひどく,男性化作用のあるダイホルモンデポ®を投与され,音声障害を引き起こした女性を30年間にわたり追跡した.声は翻転し,話声位は低下した.18歳の初診時の話声位はB3で,30歳までこの状態が続き,48歳の現在話声位はF3となっている.この状態を声も相同と考えられる一卵性双生児の妹と比較した.ホルモン投与の当初,話声位は3半音低下を見た.自家で行った音声訓練にかかわらず,声は回復しなかった.
著者
石毛 美代子 村野 恵美 熊田 政信 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.172-177, 2003-07-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

音声治療により良好な効果を得た外転型痙攣性発声障害 (外転型SD) の24歳, 女性症例を報告した.本症例では間欠的な無声化などの音声症状が (会話中) ピッチの上昇に伴って出現し, 話声位を下げると軽減した.音声治療で話声位を下げ症状の軽減を図った.G3 (196Hz) とB3 (約247Hz) の2つの目標話声位を設定し, 単語, 短文, および文章での発話練習を行い, さらに, 会話を中心とした使いこなし (carry over) 練習を加えた.治療後の結果は満足すべきものであり, サウンドスペクトログラムの結果も臨床的な印象を裏づけるものであった.6名によるモーラ法での音声評価の結果, 何らかの音声症状があると評価されたモーラ数の平均値は, 治療前は82.5であったが, 治療後は14.5 (54単語, 全176モーラ中) に減少した.話声位を下げることにより音声症状の軽減が得られたことから, 本症例の音声症状には輪状甲状筋の異常が関与している可能性が示唆された.
著者
石毛 美代子 村野 恵美 熊田 政信 新美 成二
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.154-159, 2002-04-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
21
被引用文献数
4 3

内転型痙攣性発声障害 (Adductor spasmodic dysphonia: 以下SDと略す) 様症状を呈する9症例に音声訓練を行った.7段階尺度 (0: 正常~6: 最重度) を用いた訓練前後の重症度評価, および治療効果に対する患者の主観的評価の二つにより音声を評価した.9例中4例では満足すべき結果が得られた.4例中2例は, 初期評価において機能性要因が関与していることが疑われた例であったが, 音声訓練後には正常範囲の音声に回復し, 治療結果から最終的に機能性発声障害と診断された.残る2例は初期評価の一環として行った試験的音声訓練において音声症状の軽減が認められた例であったが, 最終的にSDと診断された.以上より, SD様症状を呈する症例に対する音声訓練は鑑別診断上有効であることが示唆された.また, 音声訓練により症状の軽減が得られる症例が存在することから, 試験的音声訓練を試みるべきであると考えられた.
著者
小林 武夫 石毛 美代子 一ノ瀬 篤司
出版者
THE JAPAN LARYNGOLOGICAL ASSOCIATION
雑誌
喉頭 (ISSN:09156127)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.12-14, 2013-06-01 (Released:2013-09-27)
参考文献数
9

Spasmodic dysphonia (SD) is a focal dystonia that affects the larynx. Abductor SD (ABSD) is less common than adductor SD (ADSD). ABSD is typified by breathy breaks in connected speech.A male professional classic baritone singer, age 46, presented with gradually increasing breathy unphonated breaks in singing over the course of three years. He visited various institutions and was said to have incomplete elevation of the soft palate of unknown origin, myasthenia gravis, etc. His symptoms were remarkable in pronouncing vowels following unphonated consonants. He had been exposed to neither vocal abuse nor heavy singing performances. Our diagnosis was ABSD. An injection of Botulinum toxin (BT) into the posterior cricoarytenoid muscles was done via lateral cervical approach. His voice improved remarkably. His daily conversation became smooth; however, he could not regain his previous brilliant singing voice. He was obliged to discontinue his professional singing performances.