著者
石水 照雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.35, no.8, pp.362-373, 1962
被引用文献数
2

本稿は本邦においてとくに近年多くの関心が注がれている都市化の問題に関してなされた諸研究の成果を整理し,体系化を試みることによつて,この分野における地理学的研究の現段階(水準)を認識し,今後の研究の方向について若干の考察を行なうことを目的とする. (1) 本邦地理学界の都市化に対する関心がとくに高まつたのは戦後であるが,これは戦後における激しい都市化現象の進展に対応している. (2) 都市化概念については,いくつかの見解が披渥されたが,景観に重点をおく狭義の見解と機能に重点をおく広義の見解とに分れている. (3) 都市化のメカニズムに関する理論化に多くの努力が払われてきているが,現段階では都市化現象のecological processの分析を通じて都市化の空間的・地域的機構を求める方向に進んでいる. (4) 本邦における都市化の特質を明らかにするため,京浜・阪神・中京・東北の各地方ならびに本邦全体に関して,都市化の諸段階・近郊地域相互の比較・地域としての特色などについての研究がなされてきている. (5) 今後の都市化研究のあり方については,空間的・地域的観点が強調されecological approachに対する支持が大きく,また社会的貢献のためにも都市化地域理論が要請されている. (6) これらの文献研究を通じて結論されることは,現在の方向に沿うより多くの事例研究の必要性である.
著者
Arthur GETIS 石水 照雄
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.154-162, 1986-12-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
4

日本の3大都市圏のうち,名古屋は現代アメリカ都市に類似した街路パターンをもち,自動車保有率が高い。この名古屋大都市地域について, 1973年および1979年の石油ショックによるエネルギー費用の増大が,その機能的土地利用ないし居住・雇用のパターンにどのような影響を及ぼしたかを考察した. 中心都市名古屋の中央部では,日本の他の大都市でも見られるように,人口が減少し,商業活動の増加および高地価によって,同市を直接とり囲む近郊地区への人口移動が行なわれ,それら近郊地帯は急速に成長しそいるが,なお人口増加に対する大きな潜在力をもっている. 1973年の石油ショックに照らして,人口増加の緩慢化が予期されたが, 1969-75年間を通じて,名古屋の近郊地帯では,人口増加が見られた. エネルギー費用の増大は,日本人にとって顕著な支出となり,個人生計費の中でエネルギー費用が占める割合が拡大し,自動車のサイズ拡大の傾向が鈍化し,その使用頻度が減少するという形で対処が行なわれた。 1975-79年期以降,愛知県では新規工場の設立が顕著に下降し,新しい工業用地の開発が減少し,鉄鋼・輸送用機械・繊維・衣服など主要部門での成長が鈍化ないし衰退している. 名古屋市では,工業発展が鈍化しているが,繊維工業を除きその変化は顕著ではない.豊田市での工業発展はかなり減速した.名古屋から郊外への工業分散は,同大都市地域におけるかなり大きな人口の郊外化を十分説明するほど大きくはなく,近郊における工業発展は,その増加の上で顕著とはいえない.日本では,土地の供給不足および集約的利用から地価が高騰しているが,名古屋の中心地区でも,以前のちゅう密・低層の住宅地域が商業地域へと変容してきている. 日本では,公共および民間の相当多くの雇用機関による従業者への住宅手当や通勤の実費支給,および政府による国鉄・私鉄両者に対する補助金がある。このような補助金供与は,通勤者が運賃距離よりも時間距離の方を重視させる傾向をもつ. 電力供給の潜在的可能性から見て,工業発展の可能性のある地域は,愛知県では,とくに名古屋の近郊であると思われる. 名古屋大都市地域では,エネルギー費用がいっそう高騰して初めて,エネルギー費用が人口および工業の郊外分散ないし他地域分散を誘導すると思われる.