著者
鈴木 圭一 対馬 栄輝 石田 水里 小玉 裕治 新野 雅史
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

<B>【目的】</B>ボクシング競技において,非利き手を前方に構え打つ非利き手ストレートパンチ(非利き手パンチ)は,あらゆるパンチの基本であり,最初に習得するべき重要な位置を占める.この非利き手パンチ動作の技能は,経験者と未経験者で大きく異なると予想できる.そこで,非利き手パンチ動作において経験者と未経験者の上肢筋活動を計測し,筋活動の様式による違いがないか検討した. <BR><B>【方法】</B>経験群は国体,インターハイ出場レベルの現役高校ボクシング部員男子8名(年齢17.3±0.5歳,身長169±4.7 cm,体重57.4±8.7 kg,経験年数1.7±0.3年)とし,未経験群は男子大学生8名(年齢20.3±1歳,身長170±4.4cm,体重58.4±8.6 kg)とした.対象者には裸足,上半身裸となってもらい,構えをとらせた.経験群は各個人の構えを,未経験群は一般的な教則に従った構えとした.パンチ動作は,素手による非利き手パンチの素振りと,指定ボクシンググラブ(グラブ)を装着した非利き手パンチをトレーニングバッグ(バッグ)へ向けて打撃する2条件とした.さらにそれぞれの条件でスピード重視,強さ重視の条件で5回ずつ,計4条件20回の動作を行わせ,パンチ動作開始の合図は40回/分に設定したメトロノームとした.これらの動作において表面筋電計を用いて,非利き手の大胸筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋長頭・外側頭,三角筋前・中・後部線維,僧帽筋上・中・下部線維,広背筋の筋活動を記録した.グラブがバッグに接触する際には筋電計と同期したスイッチを使用した.パンチ動作条件の順序は,疲労,学習効果による影響を相殺するために循環法を用いて配置した. <BR><B>【結果】</B>バッグ打撃・スピード重視の条件において,経験群の全対象でグラブがバッグに接触した直後に三角筋後部線維,僧帽筋上・中部線維に強い筋活動が確認されたが,未経験群(8名中5名)はグラブがバッグに接触する前から筋活動が認められた.また,同条件において,経験群の全てでグラブがバッグに接触する直前(平均28.8±15.7 msec)に上腕三頭筋外側頭の筋活動がみられなくなるのに対して,未経験群では8名中6名でグラブがバッグに接触した直後まで上腕三頭筋外側頭の筋放電が確認された.バッグ打撃・強さ重視の条件におけるグラブバッグ接触時間は経験群125.2±46.5 msec,未経験群168.2±75.2 msecで有意差が認められた.<BR><B>【考察】</B>非利き手ストレートパンチ動作において,一般的に,未経験者や初心者など,非利き手パンチ動作において肩や腕に無駄な力が入るとよくいわれる.今回の研究の結果から,未経験者は非利き手パンチ動作の打ち始めから接触後まで拮抗筋の余計な筋活動が起こるタイミングを確認することができた.こうした点をフィードバックするなど,パンチ動作の指導に活用することによって,より効率の良い習得方法を考案することが可能となるだろう.<BR>
著者
対馬 栄輝 石田 水里
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3160, 2009

<B>【目的】</B>股関節副運動の障害を把握するために,股関節屈曲(股屈曲)・伸展(股伸展)時の大転子の動きを触知・観察する方法が考案されている(Sahrmann,2005).異常のない者では股屈曲時に大転子は比較的一定の位置に保たれ,股屈曲で後方へのすべりが起こらないと大転子は前方(腹側)に移動するといわれる.この検査法は簡便であり,臨床的にも有用だと考える.しかし実際,健常者では股屈曲・伸展によって大転子は動かないのか,動くとすればどの程度動くのかを明確にしたい.そこで健常成人を対象に,他動的な股屈曲・伸展における大転子の動きを測定した.また下肢伸展挙上(SLR)の角度や,大腿骨前捻角評価としてのクレイグテストとの関連も検討した.<BR><B>【対象と方法】</B>対象は健常成人6名(男性3名,女性3名)とした.平均年齢は20.8±0.4歳,平均BMIは20.8±3.4であった.検者は股屈曲・伸展を行う者,非測定下肢と骨盤を固定する者,大転子の位置を触知する者の3名とした.検者と被検者には事前に研究目的,内容に関する説明を十分に行い,同意を得た上で参加してもらった.測定肢は左下肢とした.被検者を平坦なベッドに背臥位とさせ,股関節中間位での大転子位置を触知し,円形のシールを貼ってマークした.次に背臥位で(1)股屈曲45°のSLR,(2)膝関節屈曲位(下腿が床と平行な状態)とした股屈曲45°と(3)腹臥位において股伸展10°としたときの,それぞれ大転子の位置を円形シールでマークした.各運動は他動運動とし,股関節回旋が起こらないように注意した.被検者の左側矢状面に対して垂直に設置したデジタルカメラ(Panasonic社製DMC-LZ5)で,マークした股関節周囲部を撮影した.撮影像をもとに画像計測ソフト(PLocate V1.0k)にて,股関節中間位に対するSLR・股屈曲・股伸展時の大転子移動距離を計測した.その他,被検者の他動的最大SLR角度の測定,クレイグテストも行った.<BR><B>【結果】</B>SLRの大転子移動距離は後方(背側)に平均1.6cm(範囲-1.3~3.8cm),股屈曲では後方に1.1cm(-1.5~1.6cm),伸展時は前方(腹側)に0.4cm(0.0~0.8cm)移動した.各大転子移動距離とSLR角度との相関はr=-0.512~0.206で有意ではなかった.クレイグテストとは股屈曲時の大転子移動距離のみがr=-0.967で有意(p<0.01)となった.<BR><B>【考察】</B>SLRと股屈曲では,ほとんどの者で大転子が後方に移動したが,このことは前捻角の影響から予想していた.股伸展は小さい可動範囲のために,移動量も少なかったのだろう.しかしクレイグテストで得た前捻角の大きい者ほど,股屈曲において大転子が大きく前方に移動する矛盾が生じた.前捻角の大きい者は大腿骨アライメントが最初から内旋位となっている可能性がある.また,後方すべりが生じ難いのかもしれない.この点については今後さらに追究する必要がある.