著者
永野 忍 諫武 稔 時吉 直祐 久保田 正一 磯邊 恵理子 中元 洋子 笹栗 淳子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>公益社団法人福岡県理学療法士会(以下,県士会とする)の会員数は5,399名(平成28年1月時点)であり,その内,女性理学療法士の占める割合は約4割である。女性理学療法士の復職に関わる課題は多岐に渡り,中でも結婚・出産・育児などのライフイベントにより離職した後の復職は大きな課題となっている。そこで今回女性理学療法士の就業環境に関する実態を把握するため県士会の会員を対象にアンケート調査を実施した。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>県士会会員5,399名を対象に就業に関するアンケート調査を実施した。調査期間は平成28年1月4日から1月31日の28日間とした。アンケートは県士会ホームページへの掲載と郵送による配布とし,回答はインターネットによる回答とFAXでの回答とした。アンケートの回答方法は選択肢の回答もしくは自由記載とした。調査内容は,離職経験の有無とその理由,復職に必要な要件,生理や産前産後・育児休暇の取得状況,妊娠中の就業継続の有無と継続に必要な要件,そして就業継続時の妊娠トラブル,更に就業を継続するための要件とした。</p><p></p><p></p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>回答者数は2,815名,回収率は52.1%であった。男性会員の約56%,女性会員の約46%から回答が得られた。男性・女性ともに回答者の約23%は離職経験があった。離職理由について,男性は「スキルアップ」が最も多く,女性では「業務内容や待遇への不満」が最も多かった。また,離職理由に「妊娠」「出産」「育児」「介護」と回答したのは女性に多い傾向がある。離職後,自宅会員の復職意欲についての回答は「今すぐ復職したい」「いずれは復職したい」が約90%を占めていた。生理休暇の利用状況は「利用できる・できていた」が約18%,産前産後・育児休暇の利用状況は「利用できる・できていた」は約68%から85%であった。そして,それらの休暇を取得するための要件として共通していたのは「職場の理解」と「スタッフ数等の職場環境の影響」であった。妊娠中に「就業を継続している・していた」と回答した者の妊娠のトラブルについては「トラブルの経験がある」が約64%であった。就業を継続するための要件として「職場の理解と協力」と回答したのは男性約58%,女性約80%であった。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>結果より,就業継続意思の高い女性理学療法士であっても女性特有の体調変化(生理等)やライフイベント(妊娠・出産等)によって就業の継続が難しくなっていることが考えられた。また,就業環境により離職や復職が困難になっているのではないかと考えられた。今回の結果より,女性理学療法士が就業を継続するために必要な要件として「職場の理解と協力」が重要であることが伺えた。今後は,就業継続意欲のある女性理学療法士がその業を続けることができる就業環境の整備について具体的な対策が必要と考える。</p>
著者
磯邊 恵理子 山本 かおり
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.E1063, 2007

【目的】訪問リハビリテーションは、対象者の自宅に訪問することで生活状況や介護状況に直接関わるという個別性をもった対応が必要とされるサービスである。しかし、介護者と対象者の思いに大きな相違が生じその相違をどのように調整していけばよいか戸惑うことも多々経験する。今回、介護者の機能改善に対する思いが強く対象者への暴力も認められ、リハビリ支援に苦難した症例を経験したので、訪問リハビリの役割や今後の課題について検討する。<BR><BR>【症例紹介】60代 男性 脳梗塞(右片麻痺)、糖尿病、糖尿病網膜症(左眼失明)要介護度1 視力障害はあるがてすりや杖使用での歩行可能。家族構成は本人・妻・長男の三人暮らし キーパーソンは遠方在住の次女であり介護のために月の半分は帰省。症例性格:発症前は会社経営をしており自由自適に生活。利益を得ることや金銭欲が強く身勝手な行動や発言が多い。訪問リハビリ導入は家族の希望によるものであり、筋力強化、ADLの向上等機能改善希望。<BR><BR>【経過】H14.7訪問リハビリ週3回(別事業所からも週3回)導入となる。本人の行動:病識なくリハビリ意欲に欠ける。しかし外出意欲は高く次女不在時は一人で外出、暴飲暴食など血糖コントロール困難。次女の行動:症例の勝手な行動に対しストレスを感じ、神経質で生活スケジュールの細部までマネジメントを行う。また機能訓練に対しての意欲強く内容や量に関する訴え多い。訪問リハビリ実施の際にもスタッフ以上に動作手順の指示があり症例の行動に対して細かい指示をされ口調も激しく出来ないと怒り何度も修正を要求。経過中の出来事:訪問リハビリ導入当初から次女による厳しい介護状況が認められたが、介護ストレス蓄積によりスタッフの目前でも暴力的行為が目立つようになった。対策:虐待行為への対応としてサービス導入による介護負担の軽減、介護者の話の傾聴による精神的支援、虐待についての説明、虐待行為が生じた時点でサービス提供中止、という内容をケアマネと取り決め実施した。<BR><BR>【結果】虐待行為に対しスタッフ間での話し合いや関連職種との連携も頻回に行ったが大きな改善を認めることなくH18.3から痙攣発作により入院となり訪問リハビリ中止、現在は機能低下(臥床)した状態で在宅生活中。<BR>【考察】対象者の尊厳を守るために本人の意思の尊重をすべきであるが、高齢者虐待や介護虐待は発見しにくく介入も困難であるといわれている。今回改善させることが出来なかった背景には症例本人による否定、介護者の症例に対しての思いの強さ、家族の生活歴の存在等があげられる。対象者、介護者間のニーズの違いに対しては専門職として助言し調整していかなければならないが今回は介護者主体の関わりであった。今後は関係職種とさらに連携を図りながら在宅で生じる問題点に対し対応をしていかなければならない。