著者
磯部 美紀
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.49-63, 2021-06-05 (Released:2023-06-24)
参考文献数
36

近年の日本においては、宗教家を介在させない葬儀が一つの葬儀形態として受容されている。また、「故人らしさ」を反映させた個性的な葬儀を望む人々もいる。今や、葬儀に僧侶が関与することは自明ではなくなりつつある。本稿では、このような葬儀を取り巻く状況の変化を受けて、僧侶が自らの役割をどのような点に見出し、いかに葬儀実践を模索しているのかを、新潟県で行われた仏式葬儀を事例に論じる。特に、法話(僧侶によって行われる説法)に注目する。法話の内容を分析すると、故人の生き様を反映させた個別化された要素と、仏教儀礼として定型化された要素が確認できる。この事例研究を通して、両要素は相反するものではなく、相互補完的な関係にあることが示された。法話実践の分析により、僧侶が個性的な葬儀を称賛する現代的ニーズに対応しつつ、同時に死別に際して必要とされる仏法に基づく物語を人々に提供する具体的様相が明らかになった。