著者
祝迫 得夫 古市 峰子
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.328-344, 2004-10

巨大企業エンロンの破綻と大手会計事務所アーサー・アンダーセンの消滅に代表される,近年のアメリカ企業における不正会計問題に関して,コーポレート・ガバナンス論の視点からの整理・検討を試みる.アメリカの不正会計問題は,一方でアメリカにおけるコーポレート・ガバナンスの変化,株主重視への流れの副産物としての側面をもっている.他方,より本質的な問題は,監査業務におけるゲートキーパー・モデルの破綻であり,その背景にあるのは大手会計事務所における監査業務とコンサルティング業務の利益相反問題である.サーベインス=オクスリー法による制度改革はこの問題の解決を試みたもので,ディスクロージャーの徹底と独立公共機関による監査制度のコントロールという2つの重要な要素を持っており,そのような改革の方向性は日本やEUにも波及している.しかし,業務の利益相反問題に関しては決定的な解決策が提示されたとは言えず,アメリカでのコーポレート・ガバナンス改革,会計システム改革がどのように進んでいくかに関しては,今後も注目が必要である.
著者
祝迫 得夫
出版者
日本ファイナンス学会 MPTフォーラム
雑誌
現代ファイナンス (ISSN:24334464)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-25, 2021-04-17 (Released:2021-04-17)
参考文献数
73

日本の急速な高齢化の進行は,家計の貯蓄率や資産選択に大きなインパクトを与えると考えられている.実際は,家計の貯蓄水準は2000年代に入った直後に大きく低下したが,その後はライフサイクル・モデルに基づく予測と比較して,相対的に高い水準に留まっている.その一方で,日本の家計の年金水準は国際的な比較で見てあまり高くないにもかかわらず,老後の収入を年金に依存する割合が高く,金融資産の構成は安全資産に大きく偏っている.したがって年金社会保障制度の維持可能性を担保するためには,家計の自助努力による資産形成を促すための投資環境を整備する制度改革を早急に行うべきであり,そのような改革は高齢家計間の不平等にも配慮したものである必要がある.また,積極的な資産運用を促すための政策・改革の一つの鍵として,家計にとっての資産運用コストを低下させるために,金融経済情報の取得をより容易なものにする必要がある.日本の家計が実際どのように金融経済情報を取得しているかについて,行動ファイナンス的な視点から分析を行った結果,リスク資産を保有しない家計の多くは資産運用に興味がなく,情報収集も行っていないが,リスク資産保有家計と比較しても長い時間を情報取得に費やしているが株式等に投資をまったく行っていない家計も一定割合いることがわかった.後者を積極的な資産運用に引き入れるための方策を考えることは,個人投資家を巡る金融制度・税制改革を成功させるために極めて重要である.