著者
柴田 碧 神保 努 水谷 淳
出版者
地域安全学会
雑誌
地域安全学会論文報告集
巻号頁・発行日
no.4, pp.3-11, 1994-08

本論文は昨1993年11月のSTECH'93において,その手法の概要を,そして本年1994年7月に日本機械学会D&D Conferenceにおいて,その中核をなす脱線車両の動力学についての発表予定の2論文をまとめたものである。最近,新幹線の速度向上は目ざましいものがある。また在来線についても160Km/h程度までの高速化が考えられている。しかし,東海道新幹線をはじめ,在来線では築堤上をはじめ,支持基盤の弱い線路区間が多くある。これらが強震程度以上の地震時にどのような状態になるかは,過去の多くの地震の事例で明きらかである。これについては,京大亀田のリポートもあり,高い密度で運転されている列車がこのような区間に突入する可能性は高い。一方,整備されたが高架区間でも,地震動はかなり激しくなると考えられ。たとえ線路支持構造物は健全であっても,高速の列車が脱線する可能性は大きい。本論文,前半では上述のような事象の多様性に対し,確率論的立場からどのような解析を行ったらよいかを,地震発生から,死傷発生の全過程について述べ,後半では脱線後の列車(車両列)の挙動に関する実験的研究について述べる。結果の一つの特徴としては,同一条件で脱線しても,車体の挙動はある単一の統計的分布をなすのではなく,複数の正規分布などで表わされる状況になり,理想化した条件下でも,その結果は非常にばらつき,いわゆるカオス的状況になる。このことはさらに,線路周辺の状況が千差万別の実路線における,事故の確率論的予測にはかなり特別の手法の導入を必要とするということを意味している。