著者
奥野 勉 上野 哲 小林 祐一 神津 進
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.85-89, 2013-05-25 (Released:2013-06-27)
参考文献数
8

目的:ガラス製品を製造する工場では,作業者は,炉,溶融ガラスなどの高温の物体が発生する強い可視光へ曝露される.ブルーライトと呼ばれる短波長の可視光への曝露は,網膜障害(photoretinopahy)を引き起こす可能性がある.本研究の目的は,ガラス製品の製造に伴って発生するブルーライトを定量的に評価することである.対象と方法:クリスタルガラス工芸品を製造する工場において,炉の内部の壁と発熱体,および,炉内に置かれたガラス材料の分光放射輝度を測定した.炉は,2基の再加熱炉,3基の溶解炉,1基の竿焼き炉を調べた.測定された分光放射輝度から,ACGIHの許容基準に従って,実効輝度を計算し,これを許容値と比較した.また,それぞれの光源について,分光放射輝度を黒体の分光放射輝度と比較し,その温度を求めた.結果:測定された実効輝度は,0.00498–0.708 mW/cm2srの範囲にあった.実効輝度は,1,075–1,516 ℃の温度の範囲において,温度と共に急速に上昇した.それぞれの光源の実効輝度は,同じ温度の黒体の実効輝度とほぼ等しかった.考察:炉の内部の壁と発熱体,および,炉内に置かれたガラス材料の実効輝度は,1日の曝露時間が104 sを超える場合の許容値である10 mW/cm2srの十分の一以下であった.したがって,これらの光源を見たとしても,網膜障害の危険性はないと考えられる.ただし,光源の温度が約1,800 ℃以上である場合には,実効輝度は,許容値を超えると推定される.このような高温の光源がガラス製品の製造の現場にある場合には,ブルーライトによる網膜障害の危険性があると考えられる.