著者
福元 健之
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.533-569, 2014-07

本稿の目的は、一九・二〇世紀転換期におけるポーランド王国の繊維業都市ウッチに焦点をあて、労働者の政治的動員をめぐる情勢について考察することにある。行論では「工場社会」という本稿独自の分析枠組が設定され、ウッチ労働者の行動を一都市における工場内部に留まらない、帝国規模の人的ネットワークに位置づけて考察した。その結果、一八九〇年代では、労働者は法律を駆使して生活改善を目指していたものの、二〇世紀初頭における工場制度の変更をへてからは、法律ではなく政党組織に対して生活の安定を求め始めたことが明らかになった。本稿はまた、特に労働者と国民民主党との関係についても論じ、同党にとって労働者動員には階級闘争から国民的一体性を防衛するという意義があり、実際にウッチではその理念から影響を受けた組織が成立したことを解明した。以上の考察を通じて、ポーランド王国における労働運動はロシア帝国の工場政策と密接な関連性をもち、また運動の形態も階級闘争に限定されないことが示された。