著者
福山 圭一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.26-45, 2016

<p> EU職域年金基金指令の改正が欧州議会で可決された。ただし、まだ EU理事会での審議が残っており、成立はしていない。改正内容は固まっており、早い段階で成立すると見込まれる。</p><p> 予定される改正は、従来の指令を全面的に改める大幅なものである。わが国企業年金への影響という観点から、無視しえないと考えられる。</p><p> 中でも、ESG投資関連の事項が多く規定されることが特筆される。ESG 投資に対するこれまでの規制スタンスの変更を加盟各国に迫るものということができる。</p><p> 年金基金のガバナンスに関して新たに各種の規制が導入される。具体的には、有効なガバナンスシステムを有するようにすること、ガバナンス方針を文書化すること、リスク管理・内部監査・(DB 年金についての)アクチュアリーが「主要機能」(key function)と位置づけられること、年金基金の運営に当たる主な役職員の人的資質要件を明らかにし、主要機能保有者の適性を加盟国所管当局が評定(assess)すること、年金基金は自らリスクアセスメントを行い文書化すること、運用基本方針を公開することなど、様々な規定が新設される。</p><p> また、年金基金は、加入者・受給者に、積極的かつ幅広い内容の情報提供を行うことが義務付けられる。とりわけ、各加入者に対し、予想年金給付額(経済シナリオによる場合はベストと好ましくないシナリオによる)などを記載した年金給付ステートメントを年に1回提供することが義務付けられる。</p><p> その他、国境を超える年金資産等の移換、監督に関する諸規定など、実施に当たってかなり要求レベルの高いと思われる規定が数多く盛り込まれる。</p><p> 単一市場を企図する EUの意欲の表れと見ることができるが、一方で、Brexitなど今後の EUのあり方自体も不透明なところがある。今後の加盟各国での対応や実施状況などを注目していきたい。</p>