著者
谷内 陽一
出版者
公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構
雑誌
年金研究 (ISSN:2189969X)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.137-173, 2022-02-25 (Released:2022-02-25)
参考文献数
47

英国では、年金ダッシュボード(pensions dashboard)という自身の公的年金および私的年金の状況を一元的に把握できるオンライン・プラットフォームの開発に官民挙げて取り組んでいる。英国では、Automatic EnrolmentおよびPension Freedomという私的年金に関する2つの大きな改正が行われた結果、老後のための資金準備および生活設計における個人の意思決定の重要性が高まっている。年金ダッシュボードは、年金および老後生活への意識と理解を高め、老後資金準備のための資産形成・運用ならびに引退後の生活設計(リタイアメント・プランニング)における個人の意思決定を支援することを目的としている。 年金ダッシュボードがもたらす利便性は万人が認めるところだが、その実現のためには、カバレッジ(適用する年金制度の範囲)、データ規格、セキュリティ・個人情報保護、開発主体・ガバナンス、開発・運営コストの負担などの課題を乗り越える必要がある。また、年金ダッシュボードによる老後所得の「見える化」を推進するためには、年金だけでなくあらゆる老後の収入・支出をカバーすること、拡張性・任意性の確保、老後資金準備を促すための機能の搭載、DX(Digital Transformation)あるいはICT (Information and Communication Technology)への対応、既存の年金情報提供ツールとの連携等に配慮した施策が求められる。 併せて、現在開発中の年金ダッシュボード・アプリケーションを用いて、老後生活設計で現在注目されている①資産の取崩し(デキュムレーション)および②WPPモデルという2つの手法の効果について可視化を試みた。特にWPPモデルでは、公的年金を増額するために手元資金をあえて取り崩すという合理的判断が求められるが、その有効性が可視化されることで今後更なる普及・活用が期待される。
著者
谷内 陽一
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.650, pp.650_1-650_22, 2020-09-30 (Released:2021-04-02)
参考文献数
23

わが国の企業年金は,年金に代えて一時金(選択一時金)を受給できるのが大きな特色だが,受給者の多くが一時金での受給を選択しているため,給付実態が制度趣旨に沿っていないと指摘されている。本稿では,わが国の企業年金において年金受給が選好されない理由について,終身年金パズル(annuity puzzle)における代表的な仮説に基づき分析した。この結果,予備的動機が一時金選択にプラスに作用していることを確認した。それ以外の仮説については,今後の社会経済情勢の変化により,一時金選択への影響がプラスからマイナスに変化する可能性が高い。併せて,終身年金パズル以外の要因(有期(確定)年金の過小評価,給付利率の低下等)が一時金選択にプラスに作用している可能性を指摘する。最後に,一時金受給が主体となっているわが国の私的年金の給付実態を踏まえつつ,公私の年金制度で老後所得を一定程度確保するための方策として,公的年金も私的年金も終身で対応する「完投型」から,就労延長・私的年金・公的年金の三者による「継投型(WPP)」への転換を提唱する。