- 著者
-
谷内 陽一
- 出版者
- 日本保険学会
- 雑誌
- 保険学雑誌 (ISSN:03872939)
- 巻号頁・発行日
- vol.2020, no.650, pp.650_1-650_22, 2020-09-30 (Released:2021-04-02)
- 参考文献数
- 23
わが国の企業年金は,年金に代えて一時金(選択一時金)を受給できるのが大きな特色だが,受給者の多くが一時金での受給を選択しているため,給付実態が制度趣旨に沿っていないと指摘されている。本稿では,わが国の企業年金において年金受給が選好されない理由について,終身年金パズル(annuity puzzle)における代表的な仮説に基づき分析した。この結果,予備的動機が一時金選択にプラスに作用していることを確認した。それ以外の仮説については,今後の社会経済情勢の変化により,一時金選択への影響がプラスからマイナスに変化する可能性が高い。併せて,終身年金パズル以外の要因(有期(確定)年金の過小評価,給付利率の低下等)が一時金選択にプラスに作用している可能性を指摘する。最後に,一時金受給が主体となっているわが国の私的年金の給付実態を踏まえつつ,公私の年金制度で老後所得を一定程度確保するための方策として,公的年金も私的年金も終身で対応する「完投型」から,就労延長・私的年金・公的年金の三者による「継投型(WPP)」への転換を提唱する。