著者
福澤 めぐみ 中島 彩香 若山 遥
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.151-157, 2018-12-25 (Released:2019-03-03)
参考文献数
15

シカ副産物(「大腿骨」、「肋骨」、「角」)に対するイヌの嗜好性を評価した。健康な成犬8頭(47.38 ± 36.80ヶ月齢、21.4 ± 9.78kg)に対して、3種類のシカ副産物を3分間提示した。嗜好テスト中の各副産物はケースに封入され、イヌは各副産物の特徴を視覚と嗅覚から入手することは可能だったが、直接の接触はできなかった。各副産物摂食経験による嗜好変化を検討するため、嗜好テストは摂食経験前および後、それぞれ3反復実施した。嗜好テスト中の行動(6項目)、副産物を封入したケース破壊の有無、副産物到達時間をそれぞれ連続記録した。探査行動の発現時間から、摂食経験前は「肋骨」や「角」よりも「大腿骨」に興味を示した。また、「角」への興味は反復に伴い低下した。摂食経験後もイヌは「肋骨」と「角」よりも「大腿骨」に興味を示し、到達時間は有意に短縮した。ケース破壊行動からは、「大腿骨」よりも「肋骨」への嗜好が高まったと考えられた。これらのことより、イヌのシカ副産物の外観に対する嗜好は摂食経験によって変化することが明らかとなった。
著者
福澤 めぐみ 阿部 紗裕理
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.153-161, 2014-12-25 (Released:2017-02-06)

伴侶動物に対する香りの導入が注目されているが、イヌにおけるアロマエッセンシャルオイル吸入曝露における使用量は検討されていない。そこで、アロマエッセンシャルオイル使用量の違いがイヌの姿勢や行動に及ぼす影響を検討した。アロマエッセンシャルオイル吸入未経験の健康なイヌ8頭を対象に、アロマエッセンシャルオイル未使用「コントロール」、ヒトにおけるアロマエッセンシャルオイル推奨使用量(0.1ml)の「1/3量(33μl)」、および「1/2量(50μl)」をそれぞれ1日1処理、同一処理に対し連続で3日暴露した。芳香吸入前10分、吸入中30分、吸入終了後10分、計50分間の姿勢(4項目)と行動(10項目)を連続観察した。芳香吸入前後において、「コントロール」では、各姿勢に有意な差が認められなかったが、「1/3量」では横臥位が減少・立位が増加した。「1/2量」では横臥位が減少・伏臥位が増加した。また、芳香吸入中と吸入終了後の各行動発現時間は処理で異なり、「1/2量」ではパンティングが「コントロール」よりも有意に少なかった。これらのことから、イヌの姿勢や行動はアロマエッセンシャルオイル量に影響を受け、「1/2量」によりリラックス効果が高まっていると推察された。
著者
福澤 めぐみ 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.176-184, 2008
参考文献数
14

イヌの訓練は、提示されたコマンドに対するイヌの行動が関連づけられていなければならないが、訓練に用いるイヌのコマンド認知に関する研究は少ない。本研究では、ヒトの言葉に対するイヌの反応について行動学的観点から探求することを目的とし、聴覚刺激として提示するため通常のコマンド提示に伴う視覚刺激などの非言語シグナルを排除した言語シグナルのみのコマンド「フセ」、「マテ」、「コイ」の提示に対する反応について、訓練開始1ヶ月前後の主にジャーマン・シェパード・ドッグを対象として調査した。各コマンドに施した刺激提示条件間においては、機械からコマンドを提示する条件に対するイヌの反応スコアは、訓練士がコマンドを直接提示する「Normal-TT」や実験者がコマンドを直接提示する「Normal-EE」条件に比べて低い傾向にあった。これは、訓練初期段階のイヌがビトからコマンドを直接提示されることに強く依存していることを示唆している。また、イヌは録音したコマンドを機械提示する刺激提示条件において、それらに対して正しい反応を示した。しかし、訓練初期段階のイヌのコマンドに対する反応は、ヒトが一方的にコマンドを提示するような機械提示の訓練よりも、直接コマンドを提示する方法を用いたほうが正しく導き出せると考えられる。
著者
福澤 めぐみ 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.61-68, 2010
参考文献数
8

訓練は、トレーナーから提示されたコマンドに対するイヌの反応と正しい行動で構成されている。本研究では、訓練におけるトレーナーのハンドシグナルやボディランゲージ、ならびにトレーナーとイヌとの距離がイヌの反応に与える影響について調査した。供試犬は、17から96ヵ月齢の計7頭(メス5頭、オス2頭)で、2つのコマンド("sit", "come")が女性トレーナーによって訓練された。トレーナーはイヌと向かい合った状態を維持して、イヌに対する自身の立ち位置を70cm(trial 1)から420cm(trial 6)へと段階的に変化させながら、コマンドの訓練を行なった。また、ハンドシグナル等の影響も調査するために、3つのトレーニングシリーズに分けその提示条件を変化(Training AとC,ハンドシグナルやボディランゲージあり:Training B,ハンドシグナルやボディランゲージなし)させた。各トレーニングシリーズはtrial 1から6で構成されていた。各コマンドのトレーニングセッション中におけるイヌの正しい反応率を記録し、85%の正しい反応が記録された時点でそのコマンドを学習したと判断した。1セッションでは、2つのコマンドをランダムに20回ずつ、計40回コマンドを提示した。コマンド"sit"において、各トレーニングシリーズにおける学習成立までのセッション数に有意な差(ANOVA:F[2,125]=11.02, P<0.001)が認められた。またTraining Aにおいて、Trial 1(トレーナーとイヌの距離は70cm)から2(トレーナーとイヌの距離は140cm)の移行時にエラー数が有意に増加した(W=27, P=0.02)。コマンドを提示するトレーナーとイヌの距離やハンドシグナル等の提示条件がイヌのコマンド学習に与える影響は、コマンドの特徴によって差が認められる。最初のトライアルは"sit"よりも"come"コマンドにおいて重要であることが示唆された。このことは、イヌがそのコマンドに反応した後のトレーナーとイヌの距離の違いに影響を受けているのではないかと考えられる。
著者
植竹 勝治 大塚 野奈 長田 佐知子 金田 京子 宮本 さとみ 堀井 隆行 福澤 めぐみ 江口 祐輔 太田 光明 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.192-198, 2007
参考文献数
20

動物介在活動(AAA)に飼い主と共に参加する飼い犬(Canis familiaris)のストレス反応を、尿中カテコールアミン濃度を測定することにより調べた。イヌの覚醒状態に影響すると考えられる次の2要因について検討した: 特別養護老人ホームでのAAAへの参加日数(現地調査1)および対面式での活動時における老人の座席配置(車座と並列)(現地調査2)。現地調査1では、新規参加犬8頭の活動前から活動後にかけた尿中ノルアドレナリン濃度の上昇量が、参加日数が経過するにつれて直線的に低下した(尿中ノルアドレナリン濃度の上昇量に対する参加日数(毎月1回の参加で計9日間)の回帰係数-1.213,R^2=050,P<0.05)。その一方で、活動中の各セッションにおいて、姿勢や行動を相対的に長く抑制された場合には、アドレナリン(長い抑制15.03±9.72ng/mL vs.短い抑制4.53±2.94ng/mL)とノルアドレナリン(長い抑制12.26±8.80ng/mL vs.短い抑制3.62±3.62ng/mL)の濃度上昇は、相対的に短い抑制の場合に比べていずれも有意に大きかった(共にP<0.05)。現地調査2では、尿中カテコールアミン濃度の上昇は、老人の座席配置、すなわち車座(12頭,アドレナリン10.73±9.77ng/mL;ノルアドレナリン7.13±8.01ng/mL)と並列(11頭,アドレナリン13.37±10.63ng/mL;ノルアドレナリン5.70±5.19ng/mL)間で差がみられなかった。これらの結果から、月1回の参加でも、飼い主と一緒であれば、特別養護老人ホームという新規な環境とAAAの雰囲気に、イヌは容易に順応することができ、また見知らぬ老人に囲まれたとしても、特に緊張を感じていないことが示唆された。