著者
鈴木 厚志 泉 貴久 福田 英樹 吉田 剛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.82, 2006

1.はじめに 2005年2月23日、イラクや北朝鮮の国位置がわからない大学生や高校生の存在を知らせる見出しが新聞紙面を賑わせた。地理教育専門委員会は、次期学習指導要領の改訂を視座に置き、同年2月22日、文部科学省記者クラブにて三つの提言を行った。その提言の基となる我々が実施した。世界認識調査(以下、調査)は、当時何と話題となり、マスコミにもよく取り上げられていた10か国の位置を問うものであった。我々は調査にあたって、「位置や場所の特徴を学習することは、国土や世界の諸地域を正しく認識する基礎となる」という考えに立った。調査結果は上述のごとくマスコミで大きく報道され、地理の重要性を社会に訴える機会をつくったともいえる。2.調査結果 調査は日本地理学会会員の協力を得、2004年12月から2005年2月上旬にかけて25大学(3,773名)、9高校(1,027名)にて実施した。大学での調査は、会員の担当する授業において実施しており、その結果は地理学に関心ある学生による結果と判断される。高校については、首都圏の進学校が大半を占める。国別の正解率は次のようになり、大学生については高校時代の「地理」履修の有無に基づきクロス集計を行った。3.報道と社会的反響我々は記者会見に先立ち、学会からの提言と調査結果の概要を、記者クラブへ事前配布をした。マスコミ各社はそれを読んで会見に臨んだため、その関心はかなり高かった。記者会見には、全国紙各社と通信社およびNHKと民放1社のテレビ局の記者らが出席した。会見そのものは30分程度であったが、終了後も活発な質問と取材があった。民放テレビ局は、事前配布した調査結果をもとに、会見当日に街頭にて独自取材を行い、我々の調査の妥当性を確認し、その結果を深夜のニュース番組で大きく取り上げた。翌日の朝刊では全国紙のみならず、通信社の配信により、広く地方紙でも記事が掲載された。その後、新聞や雑誌には調査結果をもとにした記者のコラムや読者からの投書、さらに会見当日に出席していなかったテレビ局からも取材依頼が相次いだ。これら二次的なマスコミによる報道は、発表者らも予想しない展開でもあった。4.調査から得た教訓 地理教育専門委員会は、「基礎的な地理的知識を継続して学習し、地理的見方・考え方を確実に定着させることを目指した地理教育」への提言に向けて行った今回の調査と記者会見から、次の三点を教訓として得た。第一は、現状と問題点をきちんと公開することである。会員からすれば今回の調査は単純なものであり、今日の「地理」履修状況や学力低下傾向から、その結果は当然かもしれない。今回の発表は、その結果をありのまま公開したに過ぎないのである。第二は、学会と市民を結ぶチャネルを確保することである。次期学習指導要領の改訂に向けた文部科学省や中教審委員や文教族の国会議員等への陳情活動と並行し、我々は市民を納得させ、世論を味方にする努力を怠ってはならない。外に向かった効率良い情報発信を継続すべきである。第三は、我々会員が地理学や地理教育の基礎・基本をきちんと認識することである。単に地理の重要性やおもしろさを訴えたところで、社会の共感を得ることは難しい。子どもの発達に応じた基礎・基本が整理され、それらを次の世代へ創造的に継承していくことの重要性が、広く会員へ認識されなければならない。