著者
志村 喬 小橋 拓司 石毛 一郎 後藤 泰彦 泉 貴久 中村 光貴 松本 穂高 秋本 弘章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.71-81, 2023 (Released:2023-04-11)
参考文献数
8

高校必履修科目となった地理総合が授業実践される直前の2021年10月から翌年2月にかけて実施した全国的なカリキュラム調査の結果を報告した.主要な知見は次の通りである.①1学年での必履修科目の設置率は,歴史総合の方が地理総合より高い傾向がみられ,兵庫県と私立学校では顕著である.②学校類型別では,専門学科系高校において地理探究(選択科目)は基本的に設置されておらず,地理学習は地理総合で終了するといえる.③4年制大学進学者が過半数を占める学科・コースにおいては,文系では地理探究は設置されない(選択できない)傾向,理系ではそれと逆の傾向がある.④これら実態の背景には,大学受験に対する高校での指導戦略,地理を専門とした教師の不足,過去のカリキュラム枠組(特に単位数)を変更することの困難さがあると推察される.
著者
泉 貴久 岩本 廣美
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.74-81, 2012 (Released:2012-04-09)
参考文献数
9
被引用文献数
1

日本地理学会が主催・後援する活動には,会員対象のもののほかに非会員を対象としたものがある.本稿では非会員対象の活動を社会貢献活動と呼ぶ.社会貢献活動は,一般市民向けのもの,学校教員や児童・生徒向けの地理教育に関わるものの二つに分類できる.前者は,地理学の有用性を一般市民に理解してもらうために行っており,その代表的なものが大会時に行われる公開講演会である.後者は日本の地理教育の活性化のために行われ,大会時に行われる学校教員向けの公開講座のほかに,大会とは別に不定期に行われる教員向けの研修会,高校生対象の「科学地理オリンピック日本選手権」,小中高校生対象の「私たちの身のまわりの環境地図作品展」などがある.これらの地理教育に関わる社会貢献活動の多くを,1998年に設置された地理教育専門委員会が中心となって他学会や研究会と共同で企画し,実行している.
著者
泉 貴久
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.33-52, 1993 (Released:2017-04-27)
参考文献数
34
被引用文献数
2

Up to this time, most of studies on children's environment perception have not taken account of some factors and phenomena in modern society preventing their development of perception of the environment. Moreover, these studies have taken only one district in one region as a study area and generalized the result, which has been made clear, as a typical case in this region. But, this case is not always applied to all regions, for one region, such as seen in a large-scale city, is divided into some districts which have different features respectively. Standing on these points, the author put the purpose of this paper on next three points. 1) To try to generalize the feature and the developmental process of children's perception of the environment in the neighborhood based on perceived amount, perceived space and perceived structure by using the analysis of their free-hand sketch-map. 2) To reveal the mechanism of development in environment perception by observing children's behavior in their living space basing on "the path of daily activity". 3) Taking account of the above two mentioned points, to try to grasp today's social and physical environment surrounding children. As a study area, the author chose Hiroshima City. This city consists of many districts which have differences in landscape and function because of city's enlarging accompanied with the affiliation of towns and villages around city. So, in studying, he divided this city into urban district, suburban district, moutain village district and island district. The main results are summarized as follows: 1) In urban and island districts, children's perceived amount increases with the advance of grade. On the other hand, in suburban and mountain village districts, their perceived amount decreases at the peak of forth grade. This is the reason why the simplification is recognized in their perception. 2) Children's perception of the environment is affected strongly by feature of the region where they live and their behavior in their living space. 3) In urban and suburban districts, children's perceived space enlarges, with the advance of grade, only in the narrow area of each school district, so their perceived space in these districts does not develop remarkably. In moutain village and island district, their perceived space spreads only around their home and reduces, in spite of the advance of grade, so their perceived space in these districts stops developping. 4) In urban and suburban districts, the neighborhood for children is limited in the narrow area of school district. In moutain village and island district, it is limited around their home. 5) In urban district, children's perceived structure develops with the advance of grade, however, in suburban district, it stops developping at the peak of forth grade. In moutain village and island district, the development of their perceived structure is unbalanced, so it dose not develop. 6) From the analysis of the path of daily activity, it is assumed that today's many social factors, such as school, cram school which is called "juku", mass media and club activity in school curricurum prevented children's daily activity, and that these preventions stopped their development of perception of the environment, in spite of the advance of grade. Finally, as a view in this study for the future, the author thinks that it is more useful to use the conception of time geography in order to analyse the prevention accompanied with behavior in detail, and to apply the results of this paper to improvement of geographical education. Furthermore, it is required that the way of free-hand sketch-map to analyse children's perception should be improved, because their sketch-map is filled with each children's peculiar character.
著者
鈴木 厚志 泉 貴久 福田 英樹 吉田 剛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.82, 2006

1.はじめに 2005年2月23日、イラクや北朝鮮の国位置がわからない大学生や高校生の存在を知らせる見出しが新聞紙面を賑わせた。地理教育専門委員会は、次期学習指導要領の改訂を視座に置き、同年2月22日、文部科学省記者クラブにて三つの提言を行った。その提言の基となる我々が実施した。世界認識調査(以下、調査)は、当時何と話題となり、マスコミにもよく取り上げられていた10か国の位置を問うものであった。我々は調査にあたって、「位置や場所の特徴を学習することは、国土や世界の諸地域を正しく認識する基礎となる」という考えに立った。調査結果は上述のごとくマスコミで大きく報道され、地理の重要性を社会に訴える機会をつくったともいえる。2.調査結果 調査は日本地理学会会員の協力を得、2004年12月から2005年2月上旬にかけて25大学(3,773名)、9高校(1,027名)にて実施した。大学での調査は、会員の担当する授業において実施しており、その結果は地理学に関心ある学生による結果と判断される。高校については、首都圏の進学校が大半を占める。国別の正解率は次のようになり、大学生については高校時代の「地理」履修の有無に基づきクロス集計を行った。3.報道と社会的反響我々は記者会見に先立ち、学会からの提言と調査結果の概要を、記者クラブへ事前配布をした。マスコミ各社はそれを読んで会見に臨んだため、その関心はかなり高かった。記者会見には、全国紙各社と通信社およびNHKと民放1社のテレビ局の記者らが出席した。会見そのものは30分程度であったが、終了後も活発な質問と取材があった。民放テレビ局は、事前配布した調査結果をもとに、会見当日に街頭にて独自取材を行い、我々の調査の妥当性を確認し、その結果を深夜のニュース番組で大きく取り上げた。翌日の朝刊では全国紙のみならず、通信社の配信により、広く地方紙でも記事が掲載された。その後、新聞や雑誌には調査結果をもとにした記者のコラムや読者からの投書、さらに会見当日に出席していなかったテレビ局からも取材依頼が相次いだ。これら二次的なマスコミによる報道は、発表者らも予想しない展開でもあった。4.調査から得た教訓 地理教育専門委員会は、「基礎的な地理的知識を継続して学習し、地理的見方・考え方を確実に定着させることを目指した地理教育」への提言に向けて行った今回の調査と記者会見から、次の三点を教訓として得た。第一は、現状と問題点をきちんと公開することである。会員からすれば今回の調査は単純なものであり、今日の「地理」履修状況や学力低下傾向から、その結果は当然かもしれない。今回の発表は、その結果をありのまま公開したに過ぎないのである。第二は、学会と市民を結ぶチャネルを確保することである。次期学習指導要領の改訂に向けた文部科学省や中教審委員や文教族の国会議員等への陳情活動と並行し、我々は市民を納得させ、世論を味方にする努力を怠ってはならない。外に向かった効率良い情報発信を継続すべきである。第三は、我々会員が地理学や地理教育の基礎・基本をきちんと認識することである。単に地理の重要性やおもしろさを訴えたところで、社会の共感を得ることは難しい。子どもの発達に応じた基礎・基本が整理され、それらを次の世代へ創造的に継承していくことの重要性が、広く会員へ認識されなければならない。
著者
山本 隆太 阪上 弘彬 泉 貴久 田中 岳人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1. 国際的な地理教育界におけるシステムアプローチ<br>国際地理学連合地理教育専門委員会(IGU-CGE)の地理教育国際憲章(IGU-CGE 1992)では,主題学習のカリキュラム編成原理としてシステマティックアプローチ(Systematic Approach)やシステムズアプローチ(Systems Approach)が示された。以後,地理教育にシステム論やシステム思考を導入するという考え方は世界に共通する地理教育論の一つとなっている。志村(2014)では,1970年にはすでに,IGU-CGEのローマ委員会が「空間システム的な環境&minus;人間関係」を地理教育として重視する方向性を示したことや,2000年頃の地理教育国際比較調査においてシステム思考が中等教育段階のカリキュラム編成原理の一つとなっていることが示されている。IGU-CGEのルツェルン宣言(大西2008)では,ESDを念頭に,自然,文化,社会,経済といった各圏・領域を包括的に扱う「人間-地球」エコシステム(Human-Earth ecosystem)の概念を地理教育として重視することを表明している。これに強く同調している国のひとつにドイツがある。ドイツでは地理教育スタンダードを2006年に公刊し,そこでシステムとしての空間を地理教育の中心的な目標として位置付けた(阪上2013)。また,この目標の下,地理教育システムコンピテンシーを開発し(山本2016),各州におけるカリキュラムに位置付ける動きがみられる(阪上・山本2017, 山本2016)。<br><br>2. 国内における地理教育システムアプローチの展開<br>ドイツの地理教育システムコンピテンシーは,「システム思考,ネットワーク思考ともいわれるシステム的な見方・考え方に基づき,ダイナミクス,複雑系,創発などのシステムの概念から地理的な事象や課題の構造と挙動を理解し,世界を観察・考察する教育/学習方法」と定義されている(山本2016)。この地理教育システムコンピテンシーに基づき,筆者らはシステムアプローチとしての授業実践を構想,実践した(実践一覧はhttps://geosysapp.jimdo.com/に記載)。なお,ドイツの定義に基づいて日本国内の教育実践を参照すると,例えば,鉄川(2013)では地理的事象を構造化するアプローチをとっている一方で,挙動については触れていない。システムアプローチの視座に立つと,地理授業においてすでに構造化については実践がなされている一方,挙動については課題があることが考えられる。<br><br>3. 授業実践事例 アラル海の縮小<br><br>アラル海の縮小を題材として,システムアプローチに基づく授業実践を行った。実践校は埼玉県内私立高校で,高校3年次の地理A(6時間)で実践を行った。授業は,(1)教科書や資料集を用いてアラル海の縮小に関する記述を理解する,(2)関係構造図(第1図)で問題の構造を解明する,(3)最悪シナリオ/持続可能な解決策を考えることで挙動を解明する,という展開で実践した。授業後,授業に関する生徒アンケートを実施した。<br><br>4.考察<br>システムアプローチを用いた実践では,持続可能な社会づくりを目指し,環境条件と人間の営みとの関わりに着目して現代の地理的な諸課題を考察する科目的特徴を具体化できることがわかった。また,関係構造図を用いることで,生徒自ら自分自身の思考を可視化できた。<br>