- 著者
-
稲吉 晃
- 出版者
- 日本政治学会
- 雑誌
- 年報政治学 (ISSN:05494192)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.2, pp.2_79-2_97, 2022 (Released:2023-12-15)
- 参考文献数
- 32
本稿は、開港場行政を日本と列国の合意によってのみ有効となる「行政規則の束」と捉え、そうした行政が如何に成立したのか、「港規則」の内容の変遷を検討することで明らかにする。和親条約が結ばれた1854年から明治維新直後の1870年までの「港規則(案)」の内容を検討した結果、初期には水域における船舶にかんする内容のみならず、陸上における乗組員の行動や治安維持にかかわる内容が含まれていたが、時代が下るにつれて徐々に水域の規則に内容が絞り込まれていくことが明らかになった。切り離された陸上部分については別に規則を定める努力がなされたが、日本と列国の交渉が成立しなければ規則は実効性をもたなかった。その結果、各開港場では行政規則が成立している行政領域と、成立していない行政領域がまだら状に存在することになったのである。交渉が難航した行政規則は、地方レベルから国家レベルへと交渉の場が移され、それはその後の条約改正交渉の主要な一部を占めていく。本稿の成果により、開港場行政のあり方が条約改正交渉を複雑化させるひとつの背景となったとみとおすことができる。