著者
稲垣 実果
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
パーソナリティ研究 (ISSN:13488406)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.13-24, 2007 (Released:2007-10-30)
参考文献数
28
被引用文献数
4

本研究の目的は,土居の「甘え」理論の観点から自己愛を捉え,自己愛的甘えの概念を整理し,自己愛的甘えを測定する尺度を作成することであった。自己愛的甘えは,「屈折的甘え」「配慮の要求」「許容への過度の期待」の3つの下位概念が設定された。32項目からなる自己愛的甘え尺度を大学生及び専門学校生515名に施行し,因子分析を行った結果,上記の3つの下位概念に相当する3因子が得られた。さらに確認的因子分析でも十分な適合度を示し,α係数においても高い信頼性が確認された。また,自己愛的甘え尺度は,Narcissistic Personality Inventory-S (NPI-S) で測定している自己愛とは弱い関連性を持ちながらも,「自己主張性」を含まない,別の構成概念を捉えているということ,そして多次元自我同一性尺度 (Multidimensional Ego Identity Scale: MEIS) とは各下位尺度間のいずれにおいても負の相関を示し,対人恐怖的心性尺度,被害観念尺度,疎外観念尺度とはいずれにおいても正の相関を示したことからも,構成概念的妥当性が確認された。
著者
稲垣 実果
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.56-66, 2013 (Released:2013-09-18)
参考文献数
37
被引用文献数
6 1

本研究では, まず研究1において思春期(中学生)・青年期(高校生, 大学生および専門学校生)における自己愛的甘えの程度および質についての発達的変化を検討した。さらに, 研究2においては自我同一性の形成に対する自己愛的甘えの影響を検討するため, 自己愛的甘え尺度と多次元自我同一性尺度との関連について青年期である高校生と大学生および専門学校生との間で比較検討した。その結果, 中学生・高校生・大学生および専門学校生の全ての段階で, 自己愛的甘えの3つの構成概念(「屈折的甘え」「配慮の要求」「許容への過度の期待」)は同様に仮定できることが明らかになった。また, 思春期(中学生)においては「甘え」の欲求はあるが, 自己愛的甘えについての自覚が低いのに対し, 青年期(高校生・大学生および専門学校生)になると自己愛的甘えに対する自覚が高くなることが示された。さらに, 高校生においては自己愛的甘えが自我同一性に部分的に関わっているが, 大学生以降になると高校生に比べ自己愛的甘えの問題がより広く自我同一性の問題に関わってくることが示唆された。