著者
稲葉 弥寿子 矢上 晶子 鈴木 加余子 松永 佳世子
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.56, no.7, pp.699-702, 2007-07-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
18

症例は23歳女性.既往歴はアトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎.小学4年生の時マカダミアナッツを摂取し口腔違和感と全身蕁麻疹が出現した.中学2年生の時マカダミアナッツを摂取し口腔咽頭違和感の後,全身の蕁麻疹と呼吸困難が出現した. 20歳時マカダミアナッツを含んだ中華料理の野菜を摂取し口腔の違和感が出現し,精査のため当科を受診した.抽出油によるスクラッチテスト(濃度as is)で陽性を示しマカダミアナッツによる即時型アレルギーと診断した.患者はマカダミアナッツの回避により再発は認めない.本例はマカダミアナッツ摂取によりoral allery syndorome(OAS)を示した.しかしOASの報告が最も多いシラカバ花粉のBetvl , Betv2は陰性であった.スギ花粉症を合併しているが発症は高校2年生の時であり,スギ花粉がマカダミアナッツアレルギーの感作抗原の可能性は低いと考えた.
著者
稲葉 弥寿子 白井 秀治 矢上 晶子 秋田 浩孝 阪口 雅弘 水谷 仁 松永 佳世子
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.120, no.9, pp.1893-1900, 2010-08-20 (Released:2014-11-28)

粉製品に含まれたダニの経口摂取によるアナフィラキシー2症例を経験したので報告する.症例1は50歳女性で,開封後に常温保存したお好み焼き粉を,自宅にて調理摂取した約30分後に全身浮腫性紅斑や動悸,嘔気が出現した.患者が摂取したお好み焼き粉は,賞味期限より2年が経過していた.患者血清ダニ抗原特異IgE値はヤケヒョウヒダニ23.4 IU/ml,コナヒョウヒダニ33.7 IU/mlで,コムギ関連特異IgE値はコムギ<0.35 IU/ml,グルテン<0.35 IU/mlと陰性であった.持参した同一銘柄の未開封お好み焼き粉と冷凍保存された薄力粉でのスクラッチテストは陰性であったが,ダニ抗原(鳥居薬品)のプリックテストはscore 3+の陽性を示した.症例2は28歳女性で,開封後に数カ月間常温保存したお好み焼き粉(以下事故粉)を自宅において調理中に喘息症状が出現し,摂取中に呼吸困難感や嘔吐,腹痛が出現し,アナフィラキシーショックとなった.患者血清ダニ抗原特異IgE値はヤケヒョウヒダニ51.6 IU/ml,コナヒョウヒダニ55.6 IU/mlで,コムギ関連特異IgEはコムギ<0.35 IU/ml,グルテン<0.35 IU/mlと陰性であった.プリックテストは事故粉でscore 3+の陽性,ダニ抗原(鳥居薬品)でscore 4+の陽性であった.また冷凍保存された薄力粉は陰性であった.事故粉にはコナヒョウヒダニが50匹/g検出され,ELISA法で測定したところ,ダニ主要抗原であるDer f 1が64.1 μg/gと多量に検出された.事故粉と患者血清(症例2)を用いたImmunoblot法ではダニ抗原と思われる25 kDa部位にバンドが検出された.さらに血清とダニ粗抽出液を用いたInhibition immunoblot法ではダニ粗抽出物と共通分子量付近に認められた複数のバンドは事故粉より消失した.この結果から事故粉に認められたバンドは粉中のダニ抗原に反応したバンドと考えられた.上記の検討を踏まえ,お好み焼き粉におけるダニ繁殖の実態を調査するため,我々は,お好み焼き用ミックス粉3銘柄と薄力粉におけるダニ数及びダニ抗原の増殖性の違いについて検討した.各粉にコナヒョウヒダニを添加培養し,3週間後と6週間後に評価した.培養6週間後にミックス粉のダニ数とダニ抗原は,薄力粉に比較して3銘柄ともに増加傾向を認め,1銘柄は有意に増加していた.粉類でダニの増殖を防ぐには冷蔵保存が良いとされる.市販のミックス粉の注意書きには冷蔵保存と明記する必要があり,また我々皮膚科医は小麦アレルギーと誤診しないよう注意が必要である.