- 著者
-
稲葉 緑
稲葉 啓太
- 出版者
- 情報処理学会
- 雑誌
- 情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.12, pp.1757-1769, 2022-12-15
高校生の多くが,インターネット利用にともなうリスクの知識を持つ一方で当事者意識が欠如しているとされる.具体的には,そのリスクが自身に発生する可能性を認識できていないとの報告がある.本研究は,この認識の改善に有効なディスカッション教材の提案を目的とする.提案する教材は,高校の情報モラルの授業で利用することを想定した.ディスカッションの中で,生徒はSNS利用時のリスクの高い行動についてのシナリオを読み,主人公としてその行動について判断する.その後,その判断やリスク,リスク対策等をディスカッションする.有用性を評価するため,提案する教材と,既存の情報モラルに関するディスカッション教材を参照したベースラインの教材を試作して比較した.第1に,高校教育経験者へのインタビューにより,提案教材がベースラインの教材と同程度に授業で利用可能であることの示唆を得た.第2に,高校生を対象とした実験を実施した.提案教材を使った生徒がベースラインの教材を使った生徒に比べ,ディスカッションで学んだリスクの自身への発生可能性を高く評価するとの仮説を検討し,これを支持する結果を得た.また,この教材間の評価の差は,SNS利用に関する被害未経験者で顕著であった.本研究は高校での情報モラル教育の補助教材に関する貢献を示すとともに,残された課題について議論した.