- 著者
-
高槻 成紀
立脇 隆文
- 出版者
- 日本哺乳類学会
- 雑誌
- 哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.2, pp.167-177, 2012 (Released:2013-02-06)
- 参考文献数
- 38
- 被引用文献数
-
7
我が国における中型食肉目の食性分析は頻度法を用いてきたが,頻度法は食物の組成を評価する上で過大か過少になる問題がある.組成を表現する重量や容積の評価は非常に時間がかかるが,ポイント枠法は時間をかけずに組成の量的評価が可能であり,頻度も出せる利点がある.そこで中型食肉目の食性分析におけるポイント枠法の適用性を検討するために,タヌキとハクビシンの夏と冬の胃内容物4群54試料を分析し,方法上の特徴を検討した.各試料群全体では,200カウントで98カテゴリーが,300カウントで102カテゴリーが検出されたが,試料ごとの検出カテゴリー数は少なく,200カウントで6~10(最少1,最多19)であった.検出されたカテゴリー数はカウント数の増加とともに増加したがしだいに頭打ちになり,200カウント以上はほとんど増加しなくなった.また,300カウントでの検出数の90%に達した試料数は150カウントでは53試料中31(58.5%)であったが,200カウントでは52(98.1%)になった.さらに,各試料群において300カウントでの占有率(胃内容物組成に対する百分率組成)が最大であったカテゴリーがその占有率の±10%の範囲に入るのに要するカウント数は150~170カウント(ただしハクビシン夏のみ221カウント)であり,150カウントでは36試料中16試料(44.4%)が,200カウントでは28試料(77.8%)がこの範囲に入った.これらから,食物の検出と,その量的評価のためには200カウントするのが妥当であると判断した.ポイント枠法と乾燥重量測定法の分析所要時間の平均値(n=20)は,ポイント枠法が25.9分,重量法が70.6分で,前者が後者の36.7%であった.頻度百分率と「出現占有率」(その食物を含んでいた試料の平均占有率)の関係を見ることで,食物の供給状態や動物の採食について多面的な理解が可能であることを示した.ポイント枠法による各カテゴリーの頻度と占有率の相関は高くなかった.代表的な食物についてポイント数と乾燥重量の関係を調べたところ,ベリー(多肉果実)に比べて,肉(筋肉や内臓),種子などはポイント数の割に重く(ポイント枠法は過少評価),体毛,葉,花などは軽い(ポイント枠法は過大評価)ことがわかった.ポイント枠法をおこなう上での留意点などをまとめた.