著者
竹下 公視
出版者
關西大学經済學會
雑誌
關西大學經済論集 (ISSN:04497554)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.209-236, 2020-03-20

現代中国の経済や社会をトータルに理解するために、金観涛・劉青峰 (1983) の「超安定システム」の理論を取り上げ、制度経済学と社会システム論の観点から現代中国と伝統中国とのつながりを考察した。明らかになった点は、次の6点である。①改革開放政策導入以降の高パフォーマンスは、標準的経済理論が提唱する移行経済の処方箋に沿う制度改革と政策を実施した結果であるが、他方ではそれと根本的に矛盾・対立する問題点が数多く存在する。②中国封建社会の基本形態は、一体化構造を形成する国家官僚組織と宗族制度によるシステムの維持と修復という二重の「調整メカニズム」を備える特異な社会システム(「超安定システム」)である。③中国伝統社会は西欧社会とはまったく異質の社会構造を持ち、まったく異質の歴史(「複製」と「進化」)を有する社会システムであり、その異質性は中国の伝統的学問体系に由来する。④完全な君主独裁制が確立するのは宋代以降、権力と民間が乖離し宗族や同郷同業団体等の中間組織が発達するのは17世紀以降の清朝以降のことである。⑤19世紀中葉、まったく性質の異なる西欧社会と出会った伝統中国の対応は、辛亥革命までは立憲主義に基づく漸進的な近代化、それ以降は革命による近代化が主導権を握り、共産党による新中国の建国につながる。⑥現代中国は「現代化(近代化)」の大きなプロセスの途上で、伝統中国の構造的特質を継承している面が大きい。いずれの特徴がより大きいのか、大きくなるのかについては、更なる考察・観察が必要とされる。