著者
竹内 利行 石川 英一 小暮 公孝 堀内 龍也
出版者
群馬大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1989

成長ホルモンやプロラクチンは、粗面小胞体でシグナルペプチド部分が切断されるだけで生理活性ペプチドとなるが、インスリンなど多くの生理活性ペプチドは前駆体として産生され、分泌顆粒に入る過程で、そのペプチドに隣接する塩基性アミノ酸対が限定分解をうけ、生理活性ペプチドとなる。この限定分解は内分泌細胞に特異的で、線維芽細胞、上皮細胞、リンパ球のような非内分泌細胞では、インスリン遺伝子を組み込んでもインスリンは前駆体として産生され、生理活性型には変換されない。ところで血液凝固因子や成長因子のあるものは、非内分泌細胞中で前駆体として産生され、生理活性蛋白に変換されるが、最近この変換はーArg^<ー4>ーXーLys/Arg^<ー2>ーArg^<ー1>配列がFurinという蛋白分解酵素で分解されることが分った。更にインスリン受容体や補体第3因子、第5因子の前駆体はサブユニット間に4つの塩基性アミノ酸配列を持ち、線維芽細胞やリンパ球で限定分解をうけて複数のサブユニットから成る成熟型蛋白となることが知られている。そこで我々はラットプロインスリン前駆体cDNAをB鎖ーArgーArgーLysーArgーCペプチドーArgーArgーLysーArgーA鎖となるようにした変異インスリンcDNAを作製しアフリカ緑毛猿腎上皮細胞由来COSー7に導入し、発現させたところ、培養液中の免疫活性は約60%がインスリン分画に移行してい。更にFurin遺伝子を同時発現させると、成熟型インスリンへの変換はほぼ100%となった。又インスリン分画の生物活性はヒトインスリン製剤とほぼ同等であった。以上の実験からCOSー7のような非内分泌細胞でもプロセシング部位が4つの塩基性アミノ酸配列になるように変異を加えたcDNAを発現させると、変異プロインスリンは生理活性型インスリンへ変換することが分かった。このことは非内分泌細胞でインスリンを発現させることによって、代用インスリン産生細胞として用いることができる可能性を示している。
著者
伊藤 漸 小浜 一弘 近藤 洋一 竹内 利行
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

モチリンは消化管粘膜から分泌されるペプチドホルモンで消化・吸収の終了した空腹時に約100分間隔で血流中に放出され、先ず胃・上部十二指腸に一連の強収縮をひきおこし、これが順次下部消化管に伝播して、空腸・回腸に溜った胃液・腸液を大腸の方に押しやる働きをする。モチリンによる消化管平滑筋収縮作用は、動物種によって大きく異なる。例えば、ブタやイヌから抽出したモチリンは、ラット,モルモットの消化管には全く作用しない。イヌに投与すると空腹時強収縮をひきおこし、この作用はアトロピンによって抑制されるので、モチリンの作用はアセチルコリンを介していることが予想される。ところがin vivoのウサギの実験ではこの強収縮は観察できない。しかしウサギ腸管平滑筋条片をマグヌス管につるして筋の収縮を調べるとモチリンによる筋収縮を確認でき、しかもアトロピンでは抑制されず、モチリンの平滑筋への直接作用が考えられる。但し単離筋細胞を用いた培養実験では、アセチルコリンは筋収縮をひきおこすが、モチリンでは筋収縮を確認できていない。我々は、ウサギ平滑筋膜上にモチリン受容体の存在を想定して、膜分画への ^<125>Iーモチリンの結合実験を行った。 ^<125>Iーモチリンは膜の粗分画を用いると結合を認めたが、精製した膜分画を用いると結合が認められなかった。そこで我々は、モチリンが直接平滑筋に働くのではなく、神経に作用しアセチルコリン以外の伝達物質を介して筋に働いている可能性を考慮しているが、同時に、1) ^<125>Iーモチリンの比放射能活性を高める 2)13位のMetをLeuに置換して酸化をうけにくくさせる 3)第7位のTyrを除き、カルボキシル端にTyrを付加したモチリンを合成する,等の工夫により、生物活性がヨ-ド化によっても十分保持できるモチリンの作成を行なった。現在これらの修飾モチリンを用いて平滑筋膜分画との結合実験を継続している。
著者
竹内 利行 菅野 健太郎
出版者
群馬大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

多くのペプチドホルモンは前駆体として産生され、まず生理活性ペプチドに隣接する塩基性アミノ酸対部分が限定分解を受け、更に生理活性ペプチドのカルボキシル(C)端のGlyがアミド化酵素によってC端アミドに変換される。限定分解やアミド化は内分泌細胞で特徴的におこり、上皮細胞や線維芽細胞のような非内分泌細胞ではおこらない。我々は限定分解能とC末端アミド化能が内分泌細胞の一般的特徴であることを知るために、アミド化ペプチド産生が知られていない下垂体前葉細胞も含め、種々の内分泌細胞と非内分泌細胞で限定分解能とアミド化能を検討した。そのプロ-ブとしてC端アミドの構造をもつガストリン及び、膵ポリペプチド(PP)のcDNAを、内分泌細胞(GH3,AtT20,RIN5F,PC12)及び非内分泌細胞(NIH3T3,BHK21,Hepalー6)に導入し、生産されたペプチドをそれぞれのC末端特異的抗体で検討した。内分泌細胞は全て前駆体からアミド化ペプチドを産生する能力を有していたが、非内分泌細胞ではガストリン,PP共にアミド化を受けない前駆体が産生された。ガストリンの場合は、予想通り大分子の前駆体として産生されていた。ところがPP前駆体はアミド化はうけていないものの限定分解をうけていた。非内分泌細胞で前駆体が限定分解されるには塩基性アミノ酸対の前ー4位またはー5位に、もう一つ塩基性アミノ酸が必要である。PPはーArgーTyrーGlyーLysーArgーのアミノ酸配列をもつので非内分非細胞で限分解をうけたものと考えられる。結論)アミド化ペプチド産生が知られていない内分泌細胞でも、アミド化され得るペプチドのcDNAを導入すると、アミド化ペプチドが産生されるが、非内分泌細胞では発現ペプチドのアミノ化はおこらない。しかし塩基性アミノ酸対の前方にもう一つの塩基性アミノ酸がある場合には前駆体は限定分解をうける。