著者
竹口 文博 中野 広文 菅野 義彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.561-569, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
30
被引用文献数
1

透析医にとって, 透析の見合わせが刑法上許容されるのかは重要な関心事である. 透析の見合わせは, 不作為といえるところ, 医師は患者との診療契約に基づく刑法上の作為義務を負っていることから, 不作為犯に問われる可能性がある. このため, 刑法的許容性の問題は, 生じた作為義務が解除される要件は何かという形で問題となる. 透析見合わせの正当化根拠は, 患者の自己決定権に基づく透析拒否権に求められる. したがって, 患者の透析拒否の意思表示を要件として作為義務が解除され, 透析の見合わせは刑法の規定する「人を殺した」行為に当たらず許容される. 患者本人に意思決定能力がない場合には, もし患者に意思決定能力があれば透析を受け入れないであろう, と他者が代行判断することが許容されるかが問題となるが, 意思決定能力がない患者でも, 患者の現在の推定的意思に基づく透析拒否権を尊重すべきであり, 慎重にされた場合には代行判断を許容すべきである.
著者
本城 保菜美 竹口 文博 加藤 美帆 林野 翔 長島 敦子 櫻井 進 渡邊 カンナ 宮岡 良卓 長岡 由女 菅野 義彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.409-413, 2018 (Released:2018-06-28)
参考文献数
9

症例は61歳女性. 2型糖尿病およびそれに伴う慢性腎臓病のため通院していたが, 7か月前の最終外来以降, 治療を自己中断していた. 労作時呼吸困難, 食欲低下が出現し, 緊急入院時にはHb 6.0g/dLと高度貧血を伴う末期腎不全の状態だった. 本人のみ宗教上の理由により輸血を拒否していたが, 夫を含めて話し合いをした結果, 相対的無輸血治療に同意したため緊急透析導入した. 貧血に対して赤血球造血刺激因子 (ESA) 製剤であるダルベエポチンαの増量, 鉄補充療法を中心とした治療で管理可能であった. 血液透析患者の導入期にはESA抵抗性因子が多数存在するが, 緊急を要しない貧血であれば適切な治療により無輸血で管理可能であることが示唆された.