著者
竹村 和人 向川 均 前田 修平
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.879-897, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
47

現在気候及び将来気候を対象とする大気大循環モデルによる大規模アンサンブルシミュレーションの結果を用いて、8月の北太平洋中央部におけるロスビー波の砕波頻度の将来変化、及びそれに関連する大気循環場の特徴を調べた。現在気候実験における北太平洋中央部での砕波頻度は、再解析データと同様に、エルニーニョ・南方振動と関連することが相関解析より示された。将来気候実験における北太平洋中央部での砕波頻度は、現在気候実験と比べて顕著に減少することが分かった。将来気候実験では、アジアモンスーン循環が顕著に弱化し、その結果としてアジアジェット気流が南偏する傾向が見られた。このアジアジェット気流の将来変化に伴って、北太平洋中央部ではジェット気流の分流・減速が弱化し、それは砕波頻度の減少と関連していた。また将来気候実験では、ユーラシア大陸及び北太平洋の中緯度でロスビー波の波束伝播が弱化する傾向が明瞭であり、このことは砕波頻度の減少と整合的である。相関解析及び頻度分布の解析より、将来気候実験における砕波頻度の減少は、フィリピンの東海上での積雲対流活動の弱化と関連することが示された。さらに、ω方程式を用いた診断より、砕波頻度の減少は、中部太平洋トラフの弱化及びそれに伴う力学的上昇流の弱化を通して、フィリピンの東海上での積雲対流活動の弱化に影響を及ぼすことが示された。
著者
前田 修平 竹村 和人 小林 ちあき
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.449-458, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
3

本研究では、ユーラシアパターン―ユーラシア北部において冬季に卓越するテレコネクションパターン―に関連する惑星波の変調を、JRA-55を使用した合成図分析により解析し、波―平均流相互作用を含むユーラシアパターンの力学的メカニズムを明らかにする。 平年偏差の点からは、ユーラシアパターンは、北ヨーロッパ、中西部シベリア、および日本に作用中心を持つ、等価順圧な鉛直構造をした定常ロスビー波型のテレコネクションとして知られている。一方、帯状平均からのずれの観点では、ユーラシアパターンは、東アジアの冬季モンスーンに関連する惑星波の活動度を変調する。 強化された東アジア冬季モンスーンに対応するユーラシアパターンの正位相では、対流圏のユーラシア中部から北太平洋において東方・上方に伝播する惑星波が平年より強まる。この惑星波の強化には、東アジアにおける帯状平均から擾乱への傾圧エネルギー変換が寄与する。強化され東方・上方に伝播した惑星波は、上部対流圏で収束し、それにより中高緯度の直接循環偏差と、中緯度下部対流圏への寒気流出を引き起こす。これらの結果は、ユーラシアパターンは主に惑星波の活動に関係する全球的な力学モードの1つであることを示す。
著者
竹村 和人 向川 均
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.5-19, 2023 (Released:2023-02-07)
参考文献数
45

本研究では、夏季アジアジェット出口付近でロスビー波の砕波を伴うシルクロードパターンが、太平洋・日本(PJ)パターンを引き起こす割合を調査した。ここで、シルクロードパターン事例は、ユーラシア大陸上での対流圏上層の南北風の主成分分析に基づき、黄海及び日本付近が高気圧性偏差となるパターンで特徴づけられる第1、2主成分を用いて抽出した。さらに、抽出した事例を、砕波を伴う事例と伴わない事例に分類した。 砕波を伴うシルクロードパターン事例では、アジアジェット出口付近の上層での高気圧性偏差は、砕波を伴わない事例と比べて東西により広がった形状を持ち、振幅も大きい。この事例の合成図では、シルクロードパターンに伴う波列パターンがユーラシア大陸上に存在し、アジアジェット出口付近で砕波を伴っていた。砕波の発生は、砕波域でのアジアジェットの強い減速及び分流と関連する。また砕波は、上層の高渦位気塊の進入を通して、砕波域の南側で活発な対流活動を促し、PJパターンを形成する。合成図において出現する明瞭なPJパターンは、南側で低気圧性偏差、北側で高気圧性偏差を持つ双極子構造を示す。そして、砕波を伴うシルクロードパターン事例の約60~70%が、PJパターンを伴っていた。 一方、砕波を伴わないシルクロードパターン事例の合成図では、ユーラシア大陸上で波列パターンは存在するが、砕波域の南側で活発化した対流活動及びPJパターンは存在しない。そして、砕波を伴わないシルクロードパターン事例の約40~50%がPJパターンを伴っていた。したがって、砕波によって正のPJパターンの出現頻度は1.2~1.7倍に増加し、砕波はPJパターンの励起に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
著者
竹村 和人 向川 均
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.100, no.1, pp.115-139, 2022 (Released:2022-02-22)
参考文献数
48
被引用文献数
5

太平洋・日本(Pacific–Japan; PJ)パターンの形成に及ぼす日本の東海上で生ずるロスビー波砕波の寄与の重要性を、熱帯大気海洋変動の寄与と比較しながら定量的に調べた。まず、正及び負の位相を持つPJパターンのそれぞれの事例を、砕波が発生した事例と発生しなかった事例に分類した。その結果、砕波によって引き起こされた正位相のPJパターン事例数は、正位相全事例の約20%を占めることが分かった。また、砕波を伴う正位相のPJパターン事例数は、砕波を伴う正負両位相事例の約80%を占めていた。次に、砕波を伴う正位相のPJパターン事例について、ラグ合成図を用いたQベクトルに基づく診断を行った。その結果、日本の東海上での砕波が、北西太平洋亜熱帯域へ向かう南西方向への高渦位大気の進入と、それによって北西太平洋亜熱帯域で力学的に惹起される強い対流活動を通して、PJパターンの形成を促進することが示された。このPJパターンの形成メカニズムは先行研究で示されたものと一致する。一方、砕波を伴う負位相のPJパターン事例を対象とする合成図解析によって、砕波と関連する対流圏上層での東西方向に延伸した大気循環場偏差、及びインド洋全体での正の海面水温偏差が北西太平洋亜熱帯域での対流活動を弱化させたために、砕波の発生にも拘わらず、負位相のPJパターンが形成されたことが示された。最後に、砕波を伴わない正負両位相のPJパターン事例では、北西太平洋亜熱帯域での対流活動域が、時間とともに北西進してPJパターンの形成を促すことが合成図解析の結果より示された。砕波を伴わないPJパターンは、熱帯での海面水温偏差や北半球夏季季節内振動の位相と密接に関連し、「純粋な」熱帯の影響によって形成されることが明らかとなった。
著者
竹村 和人 向川 均
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.1, pp.169-187, 2020 (Released:2020-03-26)
参考文献数
43
被引用文献数
16 22

盛夏期におけるアジアジェットに沿う準定常ロスビー波束の伝播と、太平洋・日本(Pacific-Japan:PJ)パターンが、アジアジェット出口付近におけるロスビー波の砕波を通して結合する可能性、及びそのメカニズムについて、長期再解析データを用いて調べた。まず、日本の東海上において発生した計44のロスビー波の砕波事例に基づくラグ合成図解析を行った。その結果、アジアジェットに沿う波束伝播が、日本の東海上において高気圧偏差の増幅を引き起こし、逆“S”字型の砕波に伴って、高渦位大気が北西太平洋亜熱帯域に向かって南西方向に侵入することがわかった。次に、Q ベクトルを用いた診断や渦度収支解析より、対流圏上層における砕波に伴う強い正渦度移流が、北西太平洋亜熱帯域における力学的上昇流を励起することにより、積雲対流活動の活発化、及びそれに伴うPJパターンの発現に重要な役割を果たすことが明らかになった。また、より強い砕波が生じた事例ほど、それに先行するアジアジェットに沿う波束伝播や、砕波後に生じるPJパターンが、より強くなる傾向となることが示された。さらに、偏相関分析より、北西太平洋亜熱帯域における活発な積雲対流活動やPJパターンの強化には、その周辺における海面水温偏差と比べて、対流圏上層における砕波に伴う強い正渦度移流が、より大きく寄与することが定量的に示された。これらの結果は、アジアジェットに沿う波束伝播が、日本の東海上における砕波、及びそれに伴う北西太平洋亜熱帯域への高渦位大気の侵入を通して、PJパターンを励起し得ることを示している。
著者
竹村 和人 向川 均
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.98, no.6, pp.1183-1206, 2020 (Released:2020-12-12)
参考文献数
43
被引用文献数
3 5

アジアジェットに沿った準定常ロスビー波束の伝播に伴う、日本の東海上におけるロスビー波の砕波及び太平洋・日本(Pacific-Japan:PJ)パターンの持続メカニズムを明らかにするため、長期再解析データを用いて、日本の東海上で発生した計44の砕波事例を対象として解析を行った。砕波及びPJパターンの持続日数に基づき分類した、持続事例及び非持続事例(それぞれ7事例ずつ)の合成図を比較した結果、持続事例におけるアジアジェット沿いの波束伝播は、より強くかつ持続することがわかった。また、持続事例における、より強い砕波は、北西太平洋亜熱帯域への高渦位大気の強い侵入を通して、より強いPJパターンの発現をもたらす傾向が示された。さらに、持続事例における日本の東海上の高気圧偏差は鉛直方向に北傾する構造を維持し、対流圏下・中層では、PJパターンに対応して強く張り出す太平洋高気圧の周縁に沿って、暖気移流偏差の強化がみられた。Qベクトルを用いた診断や偏相関解析より、対流圏中層における強い暖気移流は、日本~その東海上における断熱過程に伴う力学的上昇流の誘起と密接に関連することが示された。一方、北西太平洋亜熱帯域より太平洋高気圧の周縁に沿って流入する水蒸気は、日本~その東海上における水蒸気フラックスの収束偏差を強化し、非断熱過程に伴う上昇流偏差をもたらすことがわかった。相関解析より、これらの断熱及び非断熱過程と上昇流偏差との関連性は、ほぼ同程度と見積もられた。持続事例における強い上昇流偏差は、対流圏上層における渦管収縮に伴う負の渦度変化傾向を通して、砕波及びそれに関連したPJパターンの強化及び持続に寄与するとみられる。