- 著者
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竹村 和人
向川 均
- 出版者
- Meteorological Society of Japan
- 雑誌
- 気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.100, no.1, pp.115-139, 2022 (Released:2022-02-22)
- 参考文献数
- 48
- 被引用文献数
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5
太平洋・日本(Pacific–Japan; PJ)パターンの形成に及ぼす日本の東海上で生ずるロスビー波砕波の寄与の重要性を、熱帯大気海洋変動の寄与と比較しながら定量的に調べた。まず、正及び負の位相を持つPJパターンのそれぞれの事例を、砕波が発生した事例と発生しなかった事例に分類した。その結果、砕波によって引き起こされた正位相のPJパターン事例数は、正位相全事例の約20%を占めることが分かった。また、砕波を伴う正位相のPJパターン事例数は、砕波を伴う正負両位相事例の約80%を占めていた。次に、砕波を伴う正位相のPJパターン事例について、ラグ合成図を用いたQベクトルに基づく診断を行った。その結果、日本の東海上での砕波が、北西太平洋亜熱帯域へ向かう南西方向への高渦位大気の進入と、それによって北西太平洋亜熱帯域で力学的に惹起される強い対流活動を通して、PJパターンの形成を促進することが示された。このPJパターンの形成メカニズムは先行研究で示されたものと一致する。一方、砕波を伴う負位相のPJパターン事例を対象とする合成図解析によって、砕波と関連する対流圏上層での東西方向に延伸した大気循環場偏差、及びインド洋全体での正の海面水温偏差が北西太平洋亜熱帯域での対流活動を弱化させたために、砕波の発生にも拘わらず、負位相のPJパターンが形成されたことが示された。最後に、砕波を伴わない正負両位相のPJパターン事例では、北西太平洋亜熱帯域での対流活動域が、時間とともに北西進してPJパターンの形成を促すことが合成図解析の結果より示された。砕波を伴わないPJパターンは、熱帯での海面水温偏差や北半球夏季季節内振動の位相と密接に関連し、「純粋な」熱帯の影響によって形成されることが明らかとなった。